第1話 神話の書写の日々と、質素なベッドと。
側付きを下がらせ、わたくしは、聖神殿の
辛うじてスプリングが入っているだけのベッド。
わたくしは、はじめのうちどうにも寝付が良くなかった。
それでも、数夜を経るうちに、わたくしは、このベッドでも寝付けるようになっていった。
上級貴族に相応しい
貴族院ならば皆と授業を受けている刻限に、今のわたくしは書庫から出された聖典に記されている神話をひたすらに書写していく。郷土領エーリクフェンにのみ伝わる神話もあれば、王国ベルンハルトに広く伝わる神話もある。さらには、
わたくしも乙女。神々の色恋も出てくる神話を思わずに読み込んでしまうこともあったりはする。
けれども、朝食を食べてからお昼を過ぎて、3ツ時のお茶の時間となるまで、ひたすら書写をする日々は、貴族のものとは思えない。それでも、わたくしは毎日、神話を書き写している。それは聖典に記された神話を全て書き写すことが、このつまらない謹慎生活を終えるための条件となってしまっているがため。こんな屈辱的な生活からは早く脱したい。
聖神殿で日々を送るうちに、わたくしは、このベッドに馴染んでしまっていた。もちろん、横になった時の硬い感触への不快感はある。けれども、今、あたまを真っ白にできる唯一の場がここなのだった。
(これからどうしたものかしらね……)
わたくしは、また同じことを考えてしまう。第2王子に糾弾されたことで、わたくしと派閥は貴族院での序列に大きなダメージを負っているはずだった。良い縁談などもう望めないのかもしれない……。
わたくしは、固いベッドを背に広くはない
そして、だんだんと眠気が訪れてくる。平民が寝床で用いるようなベッドに馴染み眠れることに、小さな快もあった。あの無神経な平民の娘ステラが当たり前に横になっているような床で、わたくしだって眠ることができるのだ、という。
✧
身体に、微熱があった。
夕刻に戯れに、
お目付け役のイヴァンナの目を盗み、ベリタを
(いっそ、ステラのように生きられたら、ね)
今宵の身の熱に任せ、できるはずのないことをわたくしは考え始めた。
爵位もなく側付きの一人もなく、王国の外れに生きる。その時に、わたくしは、わたしは、どのように生きられるのだろうか……。
✧
《守りたいものがあるならば、どんなことをしても生きていけるよ》
熱を持った身体の火照りそのものに、そう語りかけられた気がした。
わたくしは思わず、目を開けた。身の熱は少し上がってしまっているようだったけども、静かな夜だった。
しばらく天幕を見つめるうちに、ほどなくして、わたくしは眠りについた。
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