答。
目覚めというものは突然やってくる。
私は暗闇から解放された。
あの世界にいた時も頭の片端で考えていたことだが、やはりあれは夢だったということになる。
何もかも全て、私の脳みそが造り出した幻だった。
しかし、となると。
妖精の言葉さえ、あの台詞さえ、私が空想したことだというのか。
─水に願えば
妖精の言葉。
これはつまり、私の言葉なのだろうか。
それとも。
「空ちゃーん」
「なーにぃお水ちゃん」
「今朝なにか夢見ました?」
「どうだろねぇ。見なかったよーな、でもやっぱり見たよーな?」
おぼえてなーい、と空ちゃんは言った。
空ちゃんの目線は彼女自身の手元に落とされていて、その手は古びた本の頁を絶え間なく捲っている。
空ちゃんが覚えていない事柄いうのはつまり彼女自身にとって「どーでもいいこと」。
もしも空ちゃんの夢にも妖精が登場していて、更に自分にとって有益な情報を落としていったなら、それを忘れる空ちゃんではない。
あの妖精はやっぱり、私が造り出してしまった偽物なのだろうか。
偽物、とさえ呼べないかもしれない。
所詮は夢の中。
実態のない、自由な世界。
空想の無法地帯。
非現実を排除するものは一切存在しない。
その空間の全てが、どこまでも非現実な世界。
どこまでも、都合のよい世界。
つまりは、そういうことだ。
あの妖精はやはり私が勝手に造って登場させた。そしてあまつさえ台詞まで考えてしまった。
自分に都合のよいように。
少しでも希望を持てるように。
人は、私は、いつの日かお水になれるのだと。
そう、信じている。
昔も。
今も。
だけど、私だって気付いてしまっている。
物理的に無理。
そんなこと、小学生の頃でさえわかっていたことだ。
だから。
私は突飛な方法を思い付きたかった。そうすれば、あるいは。
普通の考え方じゃあ、水にはなれない。
持ってるものを一旦全部捨てて。
とんでもない思い付きが私のこのちっぽけな頭に降りてくることを切望して。
絶望も失望も、する暇なく。
そして。
降りてきたのは妖精のお告げだった。
それも、恐らくは自ら造り上げた空想の産物。
何の効果も、どんな価値も。
つまりは作り物で、偽物。
私も空ちゃんの向かいの椅子に座って、ただ頁を捲る。
昨日。
一昨日。
一昨昨日。
ずっと。ずっと。
私は同じように、古びた本の頁を捲り続けて。
いつも同じように、何の収穫も得られず。
課題もそっちのけで、朝から夕方まで。
たまたま印象に残ったという理由で妖精を空想の世界に登場させて、意味ありげな台詞を吐かせて。
我ながらとっても幼稚だとは思うが、しかし。
1つ、確かなこと。
私はまだ、諦めていない。
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