63.覚悟が出来ないのは弱さだろうか
集落にあっという間に話が伝わり、僕は妊婦として認識された。届けられた出産用品と育児用品が山積みにされた部屋で、バルテルが唸る。
「狭くなるから、お前ら独立しろ」
バルテルのツリーハウスに転がり込んだ時は、幼子とツノ、猫一家だった。大した面積は使わなかったし、問題なかったんだけど。今となっては定住することも視野に入れて、家を建てた方がよさそう。
『琥珀、家を建てるか?』
「僕とシドウのお家?」
『ああ、うん。そう』
父親になる宣言をしている琥珀と同居……それって夫婦じゃね? いや、僕はまだメスとして生きてく覚悟がないけどね。お腹に子どももいるらしいので、もう出産と育児の覚悟は決めた。というか、なし崩しに受け入れるしかない。
「ツリーハウスにするか?」
『地上でいいと思う』
ベリアルも地上……というか、半地下だし。あれは夏に涼しく、冬に暖かいはずだ。そう聞いたことがある。
「うーん、まあ大雨がきたら逃げればいいか」
どういう意味? 尋ねる前に簡単に説明された内容では、森に数十年に一度大雨が降るそうだ。川が決壊し、あちこち水浸しになる。だから森人は地上に住まないのだとか。数十年に一度なら、その日だけ避難すればいいのに。普段から不便だろ。
『二階建てという手もある』
この世界に来てから、複数階ある建物は魔王城と人間の城くらいしか知らない。ほとんどの建物は平家だった。土地が広いから、都を縦に造らず横へ横へと広がった結果だろう。贅沢なことだ。
「二階? 魔王城の代わりだろ、もっと大きいの建てろよ」
バルテル、無責任なことを言わないでくれ。琥珀が本気にしたら……って、もう本気にしてる? うぅ、と唸る琥珀が立ち上がり「いっぱい大きいの!!」と巨大建築物を要求した。
「王様のご命令だ。でっかいの建ててやるよ」
安請け合いをしない。諌めたものの、すでに二人とも乗り気だった。僕は普通の二階屋でいいです。上は居住空間で、下を荷物置き場にしてもらえば……それで。
『普通の二階屋を頼む』
「安心しろ。びっくりする豪華な建物用意してやるよ。琥珀王の名に箔がつく建物がいいな」
人の話を聞いてないと思ったら、裏でこっそり酒を飲んでやがった。こうなったらバルテルは当てにならない。明日アルマに相談しよう。先送りして丸くなる。お腹が圧迫されて、少し姿勢を崩した。そっと寄り添う琥珀が腹を撫でながら、ぶつぶつと何か呟いている。
『琥珀、もう寝るよ』
「うん。僕のお嫁さんと僕の子! 一緒に寝る」
『…………』
コメントできず、目を閉じた。こういうとき、何て言えばいいか分からない。僕の未来は、琥珀のお嫁さんに確定しそうで。嫌じゃないけど、自分から進んで選んだ道でもない。その複雑な気持ちが、琥珀への答えを喉の奥に詰まらせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます