62.シドウの子は僕の子
ナウは三毛の子猫だ。今も視線の先でうたた寝している。あれと同じってことは、つまり……その、あれだ。
「ああ、妊娠していたんですね」
『誰がぁ!?』
「この話の流れだと、シドウ。お前が母親だ」
その言い方アウト!! 僕のお腹に、赤ちゃん? 意味不明なんだけど。いつ仕込まれた? うぬぅ、いくら体に馴染んでないからって、種仕込まれて気づかないっておかしいだろ。獣の本能とか何処へ行った!
「ちょっと失礼」
ベリアルがそっと手を当てる。魔力がじわりと浸透するのが分かった。ほんのり温かい。さらに眠気が増すから離して欲しい。琥珀はじっとお腹を見ながら、優しく手を添えるだけ。これもまた子ども体温で温かかった。気持ちいいな。
「シドウ様のお子ですが……厳密には狼の子ですね」
首を傾げた僕に説明されたのは、あのメス狼は母親だったという衝撃の事実だった。妊娠している間に、何らかの理由で群れから逸れてしまった。身重で動きづらい上、狼は集団で狩りをする生き物なので単独ではなかなか獲物にありつけなかったのだろう。
がりがりに痩せていた時は、腹部の赤子の存在に気づけなかった。だが食事を摂って休息をたっぷり取ると、当然だが腹の子はすくすくと育つ。だから腹が張ってきた。琥珀は不思議とそれを感じ取ったようだ。昔から幼子は腹の赤子に気づくらしいし。
『つまり、僕が乗り移る前にすでに妊娠してた。そのままなら母体と一緒に失われるはずだった赤子が、僕が乗り移ったことで生きてる……合ってる?』
まとめて答え合わせを要求する。ベリアルはあっさりと肯定し、バルテルも「そのあたりだろうな」と苦笑いした。実際、僕が乗り移ってから仕込んだら、こんなに大きく成長してるわけないもんな。うっかり寝てる間に、知らない生き物に犯されたかと思った。
「シドウの子は僕の子」
撫でる琥珀のセリフが怖い。どうしよう、うちの子がまだ4歳前にパパになる決断をしてるんだが? 男前すぎて怖い。
『琥珀の子じゃないと思うよ』
冷静に突っ込んだら、大泣きし始めた。ぽろぽろと涙を零して「違うもん」と首を横に振る。悲鳴みたいな声を上げて泣いたら癇癪で納得できるけど、こういう泣かれ方すると心が痛かった。傷つけちゃったかな。事実はどうあれ、夢を壊すことはなかったかも。
『あの……琥珀?』
「死んでたけど、僕が撫でたら生きた。僕の子」
なんてこった。一度母狼の腹の中で死んだ子を、魔力で無理やり蘇生させたってことか? え、じゃあ腹にいるのはゾンビ? 何が産まれるのか、怖くなってきた。魔力を流し込まれたってことは、ある意味、琥珀の種をもらったようなもんだな。
「死んだばかりの赤子を蘇生、ですか。こうなってくると、琥珀王の種族が気になりますね」
森人の血を引かないが魔族でもない、人間っぽい外見の子ども……その認識が覆りそうな事実が発覚し、僕達は頭を悩ませる。だがその前に、僕はいつ出産するんだ? あと、お腹の子は無事産まれるんだろうか。子育て経験はないぞ。課題は山積みだった。
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