61.腹の中に何かがいる!?

 ショックも一週間ほど経過すると薄れてくる。メスになってしまったんだから、仕方ない。ここは、性転換したことを受け止めるのが正しいんだと思う。


「シドウ、最近太ってないか?」


「バルテル殿、言葉を包んでください。お腹が張ってきただけですよね」


 バルテルとベリアルに指摘され、お座りして自分の体を眺める。そういや、ぐるっと丸くなる時に苦しかったりするけど。運動不足か? 元が野生の獣だから、運動量が凄かった可能性もある。急に運動をやめてご飯を食べれば、太るのも当然だった。


 この体ががりがりに痩せていたこともあり、アルマがたくさん料理を分けてくれたんだよな。分からなかった味も徐々に感じるようになって、この体に馴染んだ分だけ消化して吸収できている。この体を受け入れると決めたら、格段にふっくらしてきた。


 毛並みも整ってきて、ふわふわだし……最近はすっかり琥珀の枕だった。


『太ったかな……運動するか』


 狼だし、一人で散歩に行っても平気だろう。森人も僕が中にいることはあっさり受け入れてくれたし、首のリボンを落としたりしなければ攻撃されることもなさそうだ。問題は熊などの捕食動物がいないかだけど。厨二詠唱さえ我慢すれば、かなり強いから平気だろう。


『散歩に行って来る』


「僕も」


 がっちり僕にしがみ付く琥珀が、腹に手を回して胴体を拘束してくる。まだ背中まで手が回らないところが可愛いな。無理に振り払うこともないので、一度伏せて話を聞くことにした。


『近所の散歩で、すぐ戻ってくるぞ』


「だめ」


『熊が出たら琥珀を呼ぶから』


「危ないもん」


 とにかく出るなの一点張りだ。よく分からない。それより伏せたこの姿勢、妙に落ちつく。眠くなってきたぞ。変だな、昨日も昼寝してしまったし。睡眠時間が長くなったのは獣の体に引きずられてるからか?


「危ない、ここ……」


 訴える琥珀が撫でているのは、僕の腹部だ。運動しようと思った原因の腹は、ぽっこりと飛び出ていた。これは人間の三段腹じゃないか? 絶対に痩せてスリムになろう。メスの体なのに、元の持ち主が泣く案件だ。


「ぶつけると死んじゃう」


『ん?』


 奇妙な表現をした。腹を打つと死ぬ、それは熊に攻撃されたらの意味か? まあ腹じゃなく頭でも死ぬけど、なぜ腹に限定したんだ。同じ疑問を抱いたベリアルが琥珀に尋ねる。


「なぜお腹なのですか」


「中にいる。ナウ達と同じ」


 は?


 一瞬世界が止まった。というか、僕の呼吸が止まったらしい。バルテルにぺちぺちと頬を叩かれて、蘇生する。恐る恐るお腹を見て、そっと目を逸らした。中に、何がいる――って?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る