60.この体、メスだったの?
琥珀の育て方をどこかで間違えたかも。いや間違えた部分は不明だけどね。唸りながら、ちらりと目を向けた先で幼子は三つ指ついて挨拶する。
「ふちゅちゅかものですが、よろしくお願いします」
古式ゆかしい嫁入り作法が、魔族にあるのは知ってる。日本にそっくりだな、なんて思ってたのも懐かしい。でもベリアルがそれを琥珀に教えるとは思わなかった。
狼なので、犬のお座り状態で待たされた僕の前で、琥珀は何度も練習している。そうじゃない。いや、作法は合ってるけど……なぜ嫁入り前提で教育が進んでるんだ?
『琥珀、お嫁さんというのは女性なんだよ? 琥珀と同性の僕じゃ、お嫁さんは無理だ』
きょとんとした顔で、琥珀は僕の股間をじっくり眺める。それからにじり寄って、僕の毛皮に覆われた股間に手を突っ込んだ。
『琥珀っ!?』
「大丈夫、ちんちんない」
『……え? あ、ん?』
今、なんて言った? この体に入って数ヶ月だけど、全然気にしてなかった。もしかして……メス?
青ざめた顔で助けを求めた先で、ベリアルが驚いた表情を浮かべる。そうだよな、この体はオスだよ。中身の僕もオスだし。
「シドウ様、この体がメスだって気づいてなかったんですか?」
トドメを刺された。ぐさっと胸から背中まで突きつけたぞ。貫通して大穴……え? 本当に、冗談じゃなくて、マジのマジでメスなの!?
顎が外れそうなほど驚いてるけど、狼の顔じゃ表現しきれなかった。ちょっと間抜けな顔になった程度だ。だって鏡見ても区別つかないし。用を足すときもしゃがんでしてたし。本当にメスだったのか?
『え、だって、僕……えええええぇぇぇ!?』
「琥珀王、シドウ様は自分をオスだと思っておられたようですね」
「……メスだよね」
「そうですね」
そこっ! 勝手に話を進めない!! 僕のメンタルが崩壊寸前だからね。あの勢いで襲ってきてメス、偏見があるわけじゃないけど。異世界転生で性別変換のTSだっけ? があるのは知ってる。でもさ、ツノ時代は性別なかったのに……いきなりメスの体に入ったんで嫁に行けと言われても。
ぐしゃりと床に崩れ落ちる。お座りを保っていられない。ショックが大きすぎて、心の中がぐしゃぐしゃだった。メス……つまり子供が産める。お嫁さんになって妊娠し、子どもを産めるお母さん……あ、でも異種間で子ども出来ないかも知れないし。
単に今まで通り琥珀の面倒を見ればいいだけじゃん。メスでもオスでも一緒だ。
「琥珀王、閨の授業は後日です。それまで手を出してはいけませんよ。結婚前に孕ませるのは邪道です」
「わかった」
……同じじゃなかった。折角立て直したメンタルはまた崩壊し、ついでに涙腺も決壊したらしい。しくしく泣き続ける僕を慰めてくれたのは、母猫ニーだけだった。僕の涙を舐め、優しく毛繕いしてくれる。娘認定されたわけじゃないよな? 疑心暗鬼に駆られて、また涙がこぼれた。
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