57.琥珀の呟きが不穏なんだけど
琥珀はすっかり僕にべったりだ。以前は僕を連れ歩いていたが、僕が動けるようになったことで不安が増したらしい。琥珀から離れてしまうと思っているようだった。
「シドウ、僕のこと好き?」
毎日同じことを尋ねられ、毎日同じ返答をする。
『大好きだよ、ずっと一緒にいるよ』
心の中で「琥珀が離れていくまでは」と付け加える。言葉に出したら、きっと不安が増大してしまう。だが敏感に感じ取るのか、琥珀は僕にしがみ付いて離れなくなった。
「よくない傾向だぞ」
「そうですね。精神的に幼過ぎます」
バルテルとベリアルに言われるまでもない。僕が一番痛感していた。赤ちゃん返りのよう……ん? 人間の子どもって突然赤ちゃん返りしなかったか? ベリアルが連れてきたクウが僕の腹の下に潜りこむ。ごそごそ動いているが、すぐに眠ってしまった。
ニーはずっと背中に陣取っているし、この家に残った三毛のナウもニーと並んで昼寝中。狼なのに、猫の住処と化していた。その姿にくすくす笑うベリアルが、駆け寄ろうとする琥珀に声をかける。
「シドウは琥珀王の配下でしょう? 離れていかないと言われて、信じられませんか」
ぴたりと動きを止めた後、琥珀はしばらく考えていた。俯いてぎゅっと拳を握る。唇が尖ってるから、泣きたい気持ちなのか? それとも気に入らないのか。うまく伝える方法が分からないのかも知れない。気遣ってしまう僕を、ベリアルは視線で「動かないで」と制止した。
何か考えがあるようだ。
「ずっとあなた様と一緒にいる約束をしたのに、信じられないなら配下ではありませんね」
優しい口調なのに、内容は結構厳しい。信じられないなら、一緒にいる価値がないと突きつけた。琥珀の頭の中はぐちゃぐちゃじゃないだろうか。追い詰めたら……そう思った僕に、ベリアルは首を横に振る。まだ動くな、と。
「僕はシドウと一緒がいい。約束した。でもシドウ、歩けるから」
ぽつぽつと語り出した琥珀は、知ってる言葉で必死に説明しようとする。
「歩けると何処でも行ける。僕より一緒にいたい人に会うよ。嫌だ」
なんかキュンとしちゃうだろ。可愛いこと言うなよ、それヤキモチだ。僕が誰かに取られると思ったから、離れないように監視してたと聞こえる。
「僕にはシドウだけなのに」
ん? 最後の呟きだけおかしいぞ? そう思ったのは僕だけじゃないよな。ベリアルが目を見開いて、考え込んでしまった。どうも好意の方向性がおかしい。それはベリアルも思ったようだが、単純なバルテルは「そうかそうか」と情緒が発達し始めた琥珀を受け入れている。
今の、何か怖いぞ。親代わりへの愛情だよな? 妙な執着心や粘着質な嫉妬じゃないはず。自分に言い聞かせて、僕は琥珀に『大丈夫、琥珀の保護者だから一緒にいるよ』と予防線を引いた。
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