13.ご飯の心配しないでいいから

 バルテルは約束を守る奴だった。朝起きて食事を用意する彼の足に、ニーが絡みつく。猫特有の八の字歩きでくねくねと纏わりつき、餌を強請った。あの逞しさには負ける。


 母猫ニーがバルテルに愛想を振り撒いたことで、子猫達も安全を認識したらしい。バルテルによじ登ったぶち猫が落ち、尻餅をつくが再挑戦した。お転婆娘のラウは、いつも悪さばかりだ。黒猫のクウは雄で引っ込み思案。三毛のナウはおっとりした子だ。個性的な子猫達は、母猫の母乳で幸せを貪った。


 ニーは自分の分の餌を確保すると、さっさと食べ終えて寝転がる。待ってましたとしがみ付く子猫達はたまに牙を立てるのか、叱られていた。微笑ましい親子猫の様子を見ながら、琥珀は椅子に座る。左手にはしっかり僕を握り締めていた。


 ご飯の間は、置いてて平気だぞ。そう言ったが、心配そうに引き寄せ首を横に振った。


「やだ」


 ああ、うん。好きにしていいよ。僕自身はまったく問題ない。食べづらいんじゃないかと思ったんだけどな。苦笑いしたバルテルが、パンの真ん中に切れ目を入れて、野菜やハムに似た加工肉を挟んでくれた。


「これなら手に持って食えるだろ」


「あり、がと」


 片手でも食べられるように挟んだパンに、勢いよく齧り付く。美味しかったのだろう、一気に半分ほど食べてから止まった。悩んで、パンを服代わりの袋にしまおうとする。


 どうした?


「よるたべる」


 夕飯用に半分残すつもりか。気分としては肩を落として床に膝を突くくらい、気落ちした。どれだけひもじい思いをしてきたんだ?


「夕飯も、その前の昼飯もやるから。それは食え」


 そうだ、食べていいぞ。またもらえるからな。バルテルに重ねて言い聞かせ、ようやく琥珀は残りに口をつけた。不安そうだが、僕とバルテルが何度も説得を繰り返したので、最後まで口に入れる。薄く切った果物が沈んだ水を飲み干し、琥珀はへらりと笑った。


 お腹を撫でて「いっぱい」と呟く。なぜだろう、泣きたくなるんだが。不遇な子というのは何人か知ってるが、琥珀の場合は涙腺を刺激する。とにかく幸せにしてやりたいと思うんだよな。


「魔法を教えてやろう。もちろんシドウも一緒でいいぞ」


 外を指で指し示した途端、琥珀は僕を握り締めた。背中の方へ隠そうとする。この執着の原因は何だ? ご飯をくれたバルテルにも、同じように懐くだろうか。


「まほう、おぼえる。うれし?」


 僕が嬉しいか尋ねる琥珀に、もちろんだと伝える。僕の魔力は自然回復するし、今後の琥珀の生活に使ってもらうのは問題ない。このツリーハウスから見える、あの大きな山を吹き飛ばすくらいの火力はあるぞ。


「頼むから、山を吹き飛ばさんでくれ。あれは秋に実りの宝庫になる」


 わかってるって、例えだから。きちんと微調整を教えないと、悪気なく琥珀が吹き飛ばす可能性があると話したら、バルテルは青ざめていた。きっと上手に教えてくれるはずだ。僕は脅したんじゃないぞ?

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