14.僕は琥珀の首に下げられた

 ツリーハウスの根元には、子供服や玩具、猫用の毛布などが積まれていた。森人は助け合いが当たり前で、物持ちもいいらしい。どこかで赤子が産まれると、その家の根元に子供用品を並べるのが日常だと聞いた。


 説明しながら子供服のサイズを確認し、バルテルが選んだのは明るいオレンジ色の服だった。すぽんと上から被るワンピースタイプだが、これって女児の服じゃないか?


「気にするな、子供のうちは大差ないさ」


 別に僕は気にしないが、琥珀はどうだ? きらきらと目を輝かせて、服を撫でている。気に入ったようだ。問題は何ひとつない。


 風呂はあるのかと聞いたら、不思議そうな顔をされた。魔族もそうだが、魔法が使えると浄化で終わりにする。魔王は嗜好品として風呂を使ってたが、あれは手間も設備も必要なので無理か。元日本人としては風呂に入る方がお勧めなんだが。


 綺麗にする以外に、温かい湯に浸かるリラックス効果や血行の巡りが改善する効果もある。そう提案したら、バルテルが俄然興味を持った。


 森人はエルフとドワーフの気質を持つ種族だが、好奇心旺盛なのはドワーフ側だろうか。バルテルは僕の説明を紙に書き起こし、それを仲間に見せに行った。狩猟や収穫に出る予定の者以外を連れて戻り、風呂場を作ろうと言い出す。


 その前にバルテルに浄化を掛けさせた琥珀に着替えさせ、僕を入れる袋をもらった。細長く紐がついた入れ物は、近所の女性が昨夜縫ってくれたという。礼を言うよう琥珀に伝え、僕は中に収まった。内側に獣の毛が入っていて、ツノが揺れない仕組みだ。これはいい。


 一度は僕に穴を開けて首から下げる案も出たが、申し訳ない。却下させてもらった。自分のどてっぱらに穴を開けて吊り下げられるドMな趣味はない。アクセサリーとしてはカッコいいけどな。ちょっと大きすぎるだろ。首から下げた紐の長さを調整して、琥珀は嬉しそうに笑った。


「これでいっしょ」


 そうだな。安心しろ、一緒にいてやるから。僕は琥珀の名付け親なんだし。そう言ったら、周囲に驚かれた。というか、森人は全員僕と会話できそうだ。話せないのは魔族と人族だけか。いや、全体数はそちらの方がおおいけど。今まで接してた種族両方が話せないって、僕はどれだけ運が悪いんだ?


 自分の口でも森人の女性にお礼を言った。彼女は近所の気のいいおばちゃんといった風情で、薄茶の髪を縛っていた。別の女性は短い。あとで琥珀の髪を切って整えてもらおう。やることが多すぎて、混乱してくる。


「おふろ」


 最初はツリーハウスにしたかったバルテルだが、大量の湯を捨てる時に下が水浸しになると伝えたら諦めた。地面に建てることになり、彼らは魔法と道具を駆使して丸太小屋を組み始めた。木を伐り倒す作業に関しては、琥珀もお手伝いをする。ごっそり魔力抜けたけどな。ちょっと気合い入りすぎて、山の方まで一本道が通るくらいカットした。


 真っ直ぐに使った魔法にあんぐりと口を開けた後、ぽりぽりと頭を掻いたバルテルが「まあいいか」と笑った。山へ狩りや収穫のために向かう道を作ったと思えば、上出来だと言い放つ。本当に人がいい連中でよかった。


 ここにいれば、琥珀も安心だろう。

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