8.必須アイテムの靴がない
街さえ出てしまえば、外見を気にする必要はない。母猫ごと子猫達を抱き締めて、琥珀は走った。時々顔を顰めるのは、足の裏が痛いのだと思う。靴を履いていない。代わりになる袋もなかった。
森に入ったら、棘のある植物に注意するよう教えないと。あと日本では栗みたいに棘のある殻や実もあるし。あれこれ考える僕をしっかりと握り、琥珀はずんずんと歩いた。この年齢にしては頑張った。途中で疲れて座り込んだけど。
にゃーと鳴いた母猫ニーが食事を探しに行った。見送った先で、小さなネズミを捕まえている。狩りの上手な母猫で助かった。流水の音に気づいて、川を探すよう頼んだ。見つけた川は人里から離れているため、背の高い草が茂っている。逆に姿が隠れてちょうどいいかも知れない。
川岸で休もう。水も飲めるし、足を冷やして洗った方がいい。傷があれば、早めに治療しないと歩けなくなる。伝えた言葉に時々首を傾げるが、川に移動しろと端的に話したら頷いた。理由づけは後で良さそうだな。まず短い命令から入ろう。
川を覆うように広がる草を抜けると、その先は狭い河原があった。角の丸い石がごろごろ転がっている。大きさは小さいので、問題ない。どうやら穏やかな川のようだ。琥珀に掲げてもらい、川の先が森に繋がっていることを確認した。
「あしあらう、きずをみつける、おしえる」
言われた内容を繰り返しながら、琥珀は水辺に座り込んだ。ひたひたと尻まで濡れてるが、全く気にしない。冷たくないのか? 足を揺らして覗き込み、また揺らす。
洗い方を丁寧に説明した。スポンジやタオルの代わりがないので、両手で丁寧に擦って洗うように指導する。頷いた琥珀の隣に、ニーが獲物を積み上げた。得意げに胸を張る母猫は、きちんと獲物にトドメを差していた。狩りの練習は、この子猫にはまだ早いらしい。
「おかあさん、ごはんあらう?」
ニーは自分の分をさっさと取り分け、残りを琥珀の前に押しやった。ネズミが2匹とピンクのカエルだ。叩いて仕留めたのか、カエルは傷だらけだった。毒カエルだと思うが……琥珀は嬉しそうに口に入れる。
うまいのか? 尋ねると頷く。甘いと言われても、まあ僕は食べられないけどね。口がなくて良かったと思ったのは、今回が初めてだよ。琥珀といるとハラハラするけど、子育てっぽいのも悪くない。ようやく異世界転生っぽくなった。魔王の頭上でじっとしてるより、ずっと建設的だ。
川沿いを歩くように教えると、不思議そうな顔をした。道を歩くより森に近いし、ほぼ直線だ。何より飲み水に困らない上、川辺には小動物がたくさんいた。食料に困らない。ゆっくり教えると、頷いた。足元の丸い石も痛くないから、歩きづらくても我慢してもらおう。
僕の予想通り、琥珀の足の裏は傷だらけだった。消毒に使える薬草を見つけて教えたが、結局、このまま歩くことになる。靴がないのは致命的だ。早く森人に保護してもらわないといけない。それまで僕の魔力を消費してもらおう。どうせ歩かないんだから、疲労も関係なかった。
魔法で足を痛くないようにして。願えば痛くなくなる。僕が想像したのは結界による靴だった。しかし琥珀は言われた通り素直に願い、傷を癒してしまう。え? この子、万能型の魔法使いになれるんじゃない?
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