7.この子を守る手足が欲しい
朝日が差し込むまで、安全な場所を検討していた。といっても、魔王の頭上に300年乗ってただけの僕に、外部とのツテなんてない。持っている知識を総動員した結果、魔族でも人族でもない種族を頼るのが一番か。
琥珀は猫達と離れるのは嫌だと言う。当然だろう。彼にとっては家族なのだから。その家族の輪に僕を入れてくれるのは嬉しい。
魔族と人族の領地は大きな森により分断されている。ここには森人と呼ばれる亞人族が住んでいた。魔族のような強さを誇り、人族によく似た外見を持つ。異世界日本の知識を持つ僕は、当初エルフだと思った。耳が大きく尖った種族をイメージしたら、全然違う。魔王の頭上から確認した限り、ドワーフだろう。だが地中に住んでたり、鍛治が得意だったりしない。
外見がドワーフで、中身がエルフ。この説明が一番しっくり来るんだが。彼らは子どもを大切に育てる習性がある。それが拾い子でも関係ないのだ。とにかく調和を大切にする種族だから、新たな命は授かり物と考えていた。
「もり……いく」
躊躇う様子を見せた琥珀は、この物置小屋に来る前は、屋敷の片隅に放置されてきた。外の世界を知らないので、怖いのだろう。森人に出会ったら、きちんと挨拶をするよう教えた。日本では挨拶さえ出来れば、近所で褒めてもらえるのだ。
犯罪者になってさえ「小さい頃はちゃんと挨拶のできる良い子だったのに」と近所のおばちゃんが擁護してくれるんだから、間違いない。
「うん、あいさつ。どうやる?」
初めまして、僕は琥珀です。この森で暮らしたいです。ここまで言えたら完璧だった。何度も詰まる言葉を根気よく教える。
琥珀が身に纏っているのは、ぼろぼろの布だった。元は服なのかもしれないが、腰布と呼ぶのもギリギリのボロだ。物置小屋にあった布袋を使って、シャツもどきを羽織らせた。穴を開けて手と首を通した布袋の腰部分を紐で縛る。原始人みたいだが、腰布一枚よりマシだろう。
布を裂いて足に巻きつけるよう教えてみたが、無理だった。言語が通じても、見たこともやったこともない動作を伝えるのは難しい。靴の代わりは諦めた。脱力覚悟で結界を使わせれば、全身守られる。足も大丈夫だろう。
母猫が捕まえた小さなネズミを齧り、琥珀は明るくなり始めた外へ出ていく。人が少ないうちに森へ辿り着かなくてはならなかった。外に出てから、帽子か布を被らせるべきだったと後悔する。
ツノがあるだけで、魔族として石を投げられた。慣れているのか、琥珀は子猫や母猫を抱き締めて背を向けて逃げるだけ。走って逃げた後、真っ先に猫達の心配をした。それから僕が落ちてないか確かめて、嬉しそうに笑う。
まだ幼児で、親の庇護を必要とする年齢なのに。早く助けてくれる大人を探してやらなくちゃ。どんなに魔力があっても、僕はツノで……助けてやれない。琥珀を守れる手足がないことを、心の底から呪った。
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