日曜日、翌日、その後


 日曜日、この日が花火のあがる日であったのだが、心配で見に来たタカヤとフミノはとうとう花火が終わるまでショウとカナエを見つけられなかった。


 翌日、学校でフミノはたまたま見かけたカナエをつかまえて問い詰める。


「ちょっと、どうして昨日来なかったのよ?」

「だって……」

「ショウくんもそうだけど、2人とも少し変だよ?」


 同じころ、ショウはタカヤにつかまっていた。


「昨日は何で来なかったんだ?」

「いや、別に……」

「何か言いにくいことがあるんなら聞くぞ?」


「だって

「実は、



「だって、タカヤくんに手紙を書いたのは私なの」

「実はフミノちゃんに手紙を書いたのは俺なんだ」


フミノ&タカヤ

「えマジ?」

ショウ&カナエ

「マジ」


 それを聞いたフミノは、少しほっとした様子でため息をついた。

「実はあたし、文芸部に入ってて」

「え?あの、ショウくんも入ってる?」

「うん。それでね、あたしは、ショウくんの書く小説が好きなの。最初は何もわからなかったのに、素敵な文章を書くようになって」

「そうなんだ……」

「ねえカナエさん、タカヤくんに告白したら?」

「え……?」

「大丈夫、タカヤくんは私が呼び出すから」

「えっ、ちょっ」

「それと、それまでにショウくんと話つけてきてよね」


「ショウ、フミノさんに告白してきなよ」

「へ?」

「ちゃんと自分の気持ちを伝えるんだ。フミノさんには俺から話しておく」

「あの」

「フミノさんにはちゃんと話しておいてくれよ?」


後日

「どうしてこうなった」

「あの…よろしく」


 混乱しているタカヤに、カナエはぎこちなく笑った。


「あのさ、私たち幼馴染でさ、ずっと一緒の学校でさ、……なんでも思ったこと言い合ってさ、

でもさ……ずっと言えなかったことがあったんだ。

だから、タカヤがあの手紙を受け取った時にね、私ずっと言えなかったことを言おうと思ってて」

「待って」

「え?」

「その先を言う前に、ショウとはちゃんと話した?」

「あ、ああ……あの……まだです」


「そんなことだと思った」と言いながら、タカヤは笑い声を漏らした。


「まあ大丈夫だよ。君の思ってる全てがきっとうまくいく。けど、その先を聞くのは最後の最後で大丈夫だから」


 一方のフミノとショウである。

「まさかこうなるとは……」

「ごめん、どうしても言いたいことがあって、僕は小説が好きで文芸部に入ったけど、何も分からなかった僕にいろいろ教えてくれて、その……ありがとう。あ、それでね」

「ねえ」

「あっはい何でしょう」

「私は、ショウのこと好きだよ」

「……ふぇ?」

「何回も言わせないでよ」


 ショウは驚いて、そっと照れ笑いをするフミノの顔を見るが、視界がぼやける。


「あれ、泣いてる?」

「泣いてないもん……」


 今まで張り詰めていたものがぷつんと切れ、溢れ出す感情を抑えるのにいっぱいいっぱいになって、ショウはすぐにでも返事をしたかった。しかしフミノは「待って」と言った。


「ねえ、カナエさんとはお話したの?」

「いや……まだ」

「ふふっ、そんなことだろうと思った。じゃあ、返事はその後に聞かせて」


 後日、ショウとカナエは体育館の裏で待ち合わせた。2人はしばらく黙っていたが、2人同時に切り出そうとしてつっかえた。

「あ、あの」

「え、うん」

「お先にどうぞ」

「え、ずるい。やだ」

「じゃんけん」

「何出す?」

「言いませんって」

「何出すか言わないならしません」

「えぇ……」


「何あれ……」


 この時になって一番恋人らしくしてる2人に釈然としないフミノである。


「まあ、2人の気持ちに決心がついてよかったよ」


 タカヤはフミノをなだめながら見守った。

 カナエは少し照れくさそうに話す。


「なんだか変な時間だったね」

「え?さっきのじゃんけん?」

「そうじゃなくって、偽物の恋人だった時間がさ」

「ああ……なんだか不思議な体験だった」

「でも何というか、ありがとう」

「うん、ありがとう」


じゃあ

「僕たち」

「私たち」


別れよう。



・・・・・・

 日曜日の花火大会には行かなかった。何故だか行きたくなかった。誰に会っても気まずい思いをする予感がしていたから。

 自分でもよく分からないくらいイライラしてた。親が行かないのかと言ってきたのにも素っ気なく返した。花火なんか嫌いだ。忌々しい、早く終わってしまえと、あの遠くで響く音を聞いていた。花火なんか嫌いだ。


 嘘だ


 本当は誰よりも行きたかったはずだ。いつの日か「花火は好き?」と聞いてくれたあの人に、一緒に行こうと言ってもらえたのに。


 だから今日。もう一度約束をする。本当に心の底から大好きなあの人に。来年もう一度、一緒に花火を見に行こう。


 これは笑顔で別れるための、少年少女の物語

 偽物の恋を終わらせて本物の恋を始める物語

 恋の手紙と花火と嘘と、

 アニメ化すればいいのに


 以下、ショウとカナエの文句。

「ちょっと待って」

「こんなことになったのって」

「え?」

「お前らのせいじゃねえかあああああああ!!!!!」


おしまい。

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恋の手紙と花火と嘘と 白犬狼豺 @takeda-0

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