土曜日

 最初に待ち合わせ場所に着いたショウは緊張で胸が高鳴っていた。祭りは2日、土曜日から屋台が並び、日曜日には花火が上がる。

「ま、待った?」と後ろからカナエが突然声をかけてきたのにびっくりして一瞬フリーズする。


「イッ、いや今きたところ」

「そっ、そうですか……」


「よう!」とタカヤが少し遅れてきた。

「お、おっす」とショウはぎこちなく答える。

「あれ、フミノさんは?」カナエがたずねる。


「まだ会ってないけど?」

「そう……」


 しばらくして、フミノを探してくると言ってショウは走って行ってしまった。


「あ……」と声を漏らすカナエだったが、

(よし、よしよし、これはチャンスだ)

 そう思ったカナエは、「戻ってこないな」とつぶやくタカヤに声をかけた。


「ねえ、もう2人で行かない?」

「え、いやだってショウに悪いし……」

「お願い、もう行きたい」

「そう……」


 明日花火だから、今日2人きりの時に言わなきゃならなからと、カナエは心の中で言い訳をした。


「フミノちゃん、捜したよ。どうしたの?」

「あたし……やっぱり1人でいいかなって」

「だって4人で……」


 そう言いかけたショウは、今フミノと2人きりだということに気付いた。


「あの、もしよかったら2人でいかない?」

「ダメだよ。ショウくんはカナエちゃんと一緒にいなくちゃ」

「今日は……今日は君と一緒がいい……」

「どうして?」

「どうしても」


「あ!りんご飴」

 はしゃぐフミノと一緒に回るショウは、食べ物で釣っているような後ろめたい気分と、カナエたちと鉢合わせるのではないかという不安にとりつかれていた。


「それにしても2人ともどこにいっちゃったんだろうね」とフミノが気にする。

「綿菓子食あるよ?」

「食べる!」


 その頃、カナエもタカヤと屋台を回っていた。

「あ、焼きそば」

「ああ、カナエって昔から焼きそば好きだったもんな。いいよ、買ってきて」

「一緒に並んでよ」

「わかった」


 今晩だけタカヤといさせてくれと、カナエはショウに心の中で謝った。そして焼きそばの列でカナエたちの番になったその時である。


「ほら順番来たよ」と言うタカヤの背中越しに、ショウが見えた。

(ショウくん!?)

「どうしたの?」

「やっぱりあっち行こう」

「え、ちょっと」


 一方のショウは、「えーとじゃあ次はねー」と屋台を物色するフミノをよそに周囲に気を張りっぱなしであったが、焼きそば屋に並ぶカナエを見つけてしまったのである。


「焼きそばかなー」

「ごめんこっち来て」

「え何?」



「こっちにしよう」

「あっち行こ」

「そっち」

「あそこ」

「あのお店」

「ここの……」


 ショウとカナエはタカヤとフミノを散々引っ張りまわし、とうとう疲れ果ててしまった。


(はあ、はあ、疲れる。文芸部体力ねえな)


 息を切らしたショウにフミノは少し怪しんで声をかけた。


「ねえ、もう疲れた。今日なんか変だよ?」

「いや?そんなことないって」

「いい加減カナエちゃん捜すよ?」

「待って!唐揚げは!?」

「もうお腹いっぱい!」

「えっと、あの……」

「いい加減にしてよ!それならもうあたし帰る。……それと明日は来ないから。カナエさんと一緒にいてあげて」


 一方のカナエとタカヤである。


「ごめん、俺今日はもう帰らなくちゃ」

「じゃあ私も帰る」

「ダメだよ。最後はショウと一緒にいなきゃ」

「もうショウくんも帰っちゃったかもしれないし……」

「あいつはそんな奴じゃない。今日は彼と会ってから帰りなよ?それから……それから俺は明日来れないから。ショウと一緒に回りな」

「……」


(なんだよ…)

(なによ…)

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