第2話 吸血鬼の下僕ってマジ?
<前回のあらすじ>
後輩にめっちゃ追いかけられた
<本編>
見慣れた天井が見える。俺は自宅の自室で目が覚めたらしい。
「あ、気が付きましたね。」
蛍光灯の光に慣れず細めた目に、顔を覗き込んできた茜の姿が映った。
「おわぁ!?」
情けない声を上げながら枕を盾にして距離をとる。
「そんなに怖がらないでくださいよ」
少し悲しそうな茜の目にはいつも通りの茶色い瞳が宿っている。
髪色もいつも通りで、先ほどまでの派手な格好の面影はない。
「どうしてお前が俺の部屋にいるんだ?」
警戒態勢を継続したまま、茜に事態の説明を求める。
「先輩が道で倒れたから運んできてあげたんです。私に感謝してください」
どうやら茜は俺を助けてくれたらしい。
そもそもお前が追いかけてこなければ倒れなかったという突っ込みを飲み込み、素直に礼を言う。
だが、今目の前にいるのは見慣れたいつも通りの茜だ。
もしかしたら夕方の茜は夢だったのだろうか?
一度それらしい結論に考え至ると正当化したくなるのが人間だ。
その例にもれず俺も目の前の茜はさっきまでとは別人のような気がしてきた。
途端に心の余裕が生まれる。自然と警戒心も薄れる。
「いやー実はさ、さっきまで怖い夢をみてたんだよ。」
「どんな夢だったんですか?」
完全に目の前の茜を別人と結論付け、先ほどまでのことを夢の体で話す。
話題に食いついてきた茜に対して説明を続ける。
「いやな、金髪赤目で牙の生えたお前に追いかけられるんだよ。下僕になれーって。変な夢だよな」
「それはこんな私ですか?」
顔を正面に向けると、俺を追い回した時と同じ姿の茜が立っていた。
「で、でたあああああ!!!」
俺は壁際まで後ずさり、近くに会ったリュックを盾に構える。
「女の子にその反応は失礼ですね。デリカシーって言葉知らないんですか?」
場違いも甚だしい指摘をする茜。今はそれどころじゃない。
夢じゃなかったのかよ。
光を受けて輝く艶のある金髪に血のように赤い瞳。そして肉食獣のように立派な牙。
おおよそ人間とは思えないその姿は有無を言わせぬ恐怖がある。
「お前、何者なんだ?」
突然変身したことにより変装ではないと確定した茜の今の姿について率直に聞いてみた。
茜は「よくぞ聞いてくれました」と待ちわびていたかのように口を開いた。
「実は私、吸血鬼なんです!」
「は?」
予想外の答えに思わず本音を漏らしてしまった。
吸血鬼?
確かにその立派な牙は吸血鬼のトレードマークに見えるが。
「お前、昼間も普通に活動してるじゃん。」
吸血鬼は太陽の光を浴びると灰になるという俗説は有名だ。
だから茜が吸血鬼だということの否定材料として真っ先に思い浮かんだのが日中も活動していることだった。
「先輩、それいつの時代の話ですか?吸血鬼だって進化してるんです。今時の吸血鬼は太陽の光なんてへっちゃらなんですよ。」
茜は一瞬で元の姿に戻り、呆れた顔で答える。
「十字架は?」
「余裕です。」
「聖水は?」
「効きません。」
「ニンニクは?」
「むしろ好きです。」
………………。
どうやら想像上の怪物は長い年月をかけて弱点を克服するように進化したようだ。
弱点多すぎて怖くないと巷で有名な吸血鬼はもういないのかもしれない。
「とりあえずお前が吸血鬼だと仮定して、どうして俺が下僕になる必要があるんだ?」
茜が俺を追いかけてきた理由は茜の下僕になることを拒んだからだ。
あれだけ必死に追いかけてきたのだ。それなりの理由があるのだろう。
「ああ、それはですね、いつでも生き血を吸える人間が欲しかったからです。ウォーターサーバーみたいなものですね。」
俺に一生拭えない恐怖を植え付けておきながらウォーターサーバー扱い。
ぶっ飛ばしてやりたい。
振り上げかけた拳を何とか収め、質問を続ける
「今までは知らない人を襲ってたのか?」
これまでの食事(血)事情を尋ねる。
「そんなことしませんよ。むしろそれをしないために定期的に血液を供給してくれる人が欲しかったんですよ。それに選ばれたのが先輩です。」
「それが俺である必要性は?」
「特にありません。」
茜に向ってリュックを投げつける。
俺はたまたま貧乏くじを引いたってか。
「嘘です。先輩を生き血サーバーにしようとした理由は、好きだからですよ。」
「え」
突然の告白。
その不意打ちに俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
茜が俺の事を。そうか、そんな風に思っていたのか。
「先輩の血の味が好きだからです。」
「ちくしょう!」
わかってたさ!
俺がホイホイ告白されるイケメンじゃないなんてないことくらい!
「もしかして先輩、私に告白されたとか思ってました?」
「……そんなことないし。」
「きゃははは!私が先輩ごときに告白なんてするわけないじゃないですか!」
心底嬉しそうに笑い転げる茜。
俺は心の中でこいつの弁当にニンニクを混入させようと誓った。
「ところで、どこで俺の血の味なんて知ったんだ?」
当然のことながら、茜に血を吸われた記憶などない。
「先月学校で全校生徒を対象にした血液検査があったじゃないですか。あの時採った血を味見したんですよ。他にも何人かから貰ったんですけど、先輩のが一番美味しかったですよ」
その発言にドン引きする。
想像したら吐き気がしてきた。
そしてこれほどまでに一番を貰って嬉しくなかったことはない。
「まあ、その、俺を選んだ理由はわかった。だがお前の下僕に成り下がる気はない」
再度断りの意を示す。
ここまでの会話で一連の出来事の全体像が見えたので、恐怖はだいぶ取り除かれて強気の意を示すことができた。
「先輩、それは無理な相談です。」
微笑みを浮かべながら答える茜。
もっと怒ると思ったのだが、意外にも穏やかな様子だ。
「なぜだ?」
俺の疑問に茜は自分の首筋を指さしながら答える。
「だって、もう直接先輩から血吸っちゃったから。」
俺は吸血鬼についてのある俗説を思い出した。
吸血鬼は吸血した対象を自分の眷属にすることができるという。
一気に血の気の引いた俺は、自分の首を抑えて茜の顔を見る。
茜は愉悦の笑みを浮かべてつぶやいた。
「これからよろしくお願いします。先輩♡」
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