第61話 三度目の雷撃

 朝一番の戦闘でF6Fヘルキャット戦闘機を食いまくった俺たちはこの日の午後、二度目となる出撃をした。

 だが、早朝に行われた敵戦闘機の掃討を目的とした第一次攻撃とは違い、現在の俺の機体の下には厄介極まりない重量物の魚雷が搭載されている。

 その目的は米空母の撃滅。

 本来、雷撃は強風改の任務なのだが、各空母ともにその数は極めて少ない。

 第一機動艦隊の最優先目標がマリアナ諸島に来寇した米機動部隊から同地を守り抜くことであり、米機動部隊の撃滅は二の次に置かれていたからだ。

 だから、ほとんどの母艦は制空権獲得のための烈風改主体の編成であり、強風改はわずかな数しか用意することが出来なかったのだ。


 だがしかし、すべての米空母が銀河隊の攻撃によって離発艦不能となり、また空母を守る護衛艦隊も壊滅的ダメージを被っている今こそ米空母撃滅の千載一遇の好機でもある。

 そして、その好機をみすみす見逃すような一機艦司令長官ではない。

 一機艦司令長官は麾下の全空母に対して魚雷が尽きるまで攻撃を継続するよう厳命した。

 このため、魚雷調整室の無い小型空母の搭乗員で雷撃経験を持つ者の多くが正規空母へ移動するよう命じられている。


 そして、各空母から飛び立った攻撃隊の編成は以下の通りだったという。


 第二次攻撃隊

 「翔鶴」 強風改六機、烈風改一八機(全機雷装)

 「瑞鶴」 強風改六機、烈風改一八機(全機雷装)

 「飛龍」 強風改六機、烈風改 九機(全機雷装)

 「隼鷹」 強風改六機(全機雷装)

 「飛鷹」 強風改六機(全機雷装)

 「大鳳」 強風改六機、烈風改一八機(全機雷装)

 さらに、上記に加えて「瑞鳳」「龍驤」「龍鳳」「千歳」「千代田」「日進」「瑞穂」から烈風改各一個小隊計二八機が護衛任務にあたる。


 第三次攻撃隊

 「翔鶴」 強風改六機、烈風改一五機(全機雷装)

 「瑞鶴」 強風改六機、烈風改一五機(全機雷装)

 「飛龍」 強風改六機、烈風改 六機(全機雷装)

 「隼鷹」 強風改六機(全機雷装)

 「飛鷹」 強風改六機(全機雷装)

 「大鳳」 強風改六機、烈風改一八機(全機雷装)

 上記に加え、「瑞鳳」「龍驤」「龍鳳」「千歳」「千代田」「日進」「瑞穂」から烈風改各一個小隊計二八機が護衛任務にあたる。


 四隊が確認されている米空母群に対し第二次攻撃隊の「瑞鶴」隊ならびに「翔鶴」隊が一群を、別の一群を「大鳳」隊と「飛龍」隊、それに「隼鷹」隊と「飛鷹」隊が攻撃する。

 第三次攻撃隊も同様に「瑞鶴」隊と「翔鶴」隊が一群を、他の四隻の空母が別の一群を叩く手はずだった。

 それと、商船改造空母の「隼鷹」と「飛鷹」については船脚が遅く、RATOを使用しても雷装烈風改の運用が困難とみられるため、強風改のみが攻撃隊に参加している。




 俺はすでにウェーク島沖海戦とマーシャル沖海戦で二度の雷撃を経験していたが、それでも慣れるということはなかった。

 それと、今回は発艦促進装置という名のロケットを烈風改に取り付けての発艦だった。

 RATOとか言うらしいのだが、要は烈風改にロケットをくっつけてその勢いを助けとして滑走距離を短縮しようってことだ。


 燃料、銃弾ともに満タンでしかも物騒な魚雷まで抱えている機体に火を噴くロケットを装着しての発艦などぞっとしないが、機体が小柄で魚雷を装備するとどうしても滑走距離が長くなる烈風改には絶必であるのも確かだった。


 俺は少しばかりビビリつつ、それでもなんとか発艦。

 それからは嚮導機の強風改に付き従い、さらに敵艦隊のすぐ手前からは海面を這うように進む。

 それもまた苦行と言ってよかった。

 海面ギリギリを飛ぶのは絶対に慣れることはないと思う。

 だが、それを誰かがやらなければならないのも事実だ。

 だからこそ、士官である俺は率先してそれをやらなければならない立場なのだが、それでも嫌なものは嫌だ。

 とっととこのクソ重い魚雷を敵空母にぶち込んで「瑞鶴」に戻りたい。


 そう思っていたら目の前に米艦隊が見えてきた。

 各艦の動きが鈍い。

 それに、対空砲火はこれまでの米軍のそれに比べて明らかに低調だった。

 銀河隊が完璧な仕事を成し遂げてくれたのだろう。

 感謝を捧げている俺の耳に、航空無線から「目標、右前方の空母」という声が流れてくる。

 強風改が指示した目標の姿がはっきりしてくるにつれて俺は息を飲む。


 「でかい!」


 船体の長さは俺の母艦である「瑞鶴」と比べて同じかやや長いくらいだが、海面から飛行甲板までの高さは「瑞鶴」に比べて明らかに高く、また煙突と一体化した艦橋の巨大さも相まってそのボリュームは四万トン近いかつての「赤城」や「加賀」と比べてもまったく遜色はない。

 その敵空母の艦影がどんどん大きくなってくる。

 散発的ながらも敵の機関砲や機銃から吐き出される火箭がこちらに向かって噴き伸びてくる。

 恐怖でひきつる俺の視界いっぱいに空母の姿が広がる。


 「近づきすぎだろう!」


 俺が胸中で抗議の声をあげたとき、航空無線から「用意、撃てっ!」との命令が流れる。

 間髪入れず俺は魚雷を投下した。

 外しようのない距離だった。

 あとは逃げるだけだ。

 曳光弾が俺を追いかけてくる。

 マジこわい!




 第二次攻撃隊ならびに第三次攻撃隊の強風改と烈風改による攻撃の結果、米空母はそのすべてが最低でも一本の魚雷を被雷していた。

 そのうち片舷に二本を撃ち込まれた軽空母一隻が沈みかかっており、残りの空母は這うように東に逃走している。

 こいつらを見逃す手はなかった。

 そして、すでに一機艦司令長官は米軍にとって最強最悪の刺客を放っていた。

 戦艦「大和」ならびに「武蔵」を基幹とする第二艦隊だった。

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