第54話 主力艦隊

 太平洋戦争期間中、日米の間で生起した最大の艦隊戦と言われた「マリアナ沖海戦」。

 圧倒的な戦力を誇ると言われた米第三艦隊も史実を紐解けば機能不全寸前だったことが分かる。

 その米第三艦隊は、それぞれ二隻の正規空母と軽空母を基幹とし、それらの護衛として軽巡二隻と駆逐艦一二隻で編成された空母群を四つも擁していた。

 さらに、新型戦艦を中心とした水上打撃部隊まで配備されたその一大機動部隊は、一見したところでは米国という超大国の力を見せつけるのに十分すぎるほどの威容を誇っていた。



 第三艦隊


 第一群

 正規空母「エセックス」「レキシントン2」

 軽空母「インデペンデンス」「プリンストン」

 軽巡二、駆逐艦一二


 第二群

 正規空母「バンカー・ヒル」「ヨークタウン2」

 軽空母「ベロー・ウッド」「カウペンス」

 軽巡二、駆逐艦一二


 第三群

 正規空母「イントレピッド」「ワスプ2」

 軽空母「モンテレー」「ラングレー」

 軽巡二、駆逐艦一二


 第四群

 正規空母「フランクリン」「ホーネット2」

 軽空母「カボット」「サン・ジャシント」

 軽巡二、駆逐艦一二


 水上打撃部隊

 戦艦「アイオワ」「ニュージャージー」

 軽巡四、駆逐艦八



 正規空母と軽空母がそれぞれ八隻に戦艦が二隻、さらに軽巡一二隻に駆逐艦五六隻からなる空前絶後の洋上戦力だった。

 艦上機もF6Fヘルキャット戦闘機が五一二機(うち夜戦仕様三二機)、SB2Cヘルダイバー急降下爆撃機が二八八機、TBFアベンジャー雷撃機が二六四機の合わせて一〇六四機にも及ぶ。

 さらに多数の輸送船や油槽船を守るために護衛空母と重巡がそれぞれ八隻、それに軽巡二隻に駆逐艦三二隻から成る護衛部隊も後続している。

 まさに史上最大、空前絶後の艦隊だった。


 だが、実のところ、これでもまだ全力出撃には程遠かったのだ。

 米第三艦隊には他にも二隻の「エッセクス」級空母と一隻の「インデペンデンス」級空母一隻が就役あるいは竣工していたが、訓練未了や乗組員不足が理由でこの海戦にはその姿を現してはいない。

 また、一〇隻以上の巡洋艦と三〇隻近い駆逐艦もまた乗組員不足がたたって作戦に参加できずにいた。

 戦艦も太平洋方面に配備された六隻の新鋭艦のうちでマリアナ進攻部隊に配備されていたのは「アイオワ」級の二隻のみで、残る四隻の「サウスダコタ」級は乗組員の確保の見通しがまったくきかず、西海岸の米海軍基地にむなしく繋留されているだけだった。

 また、護衛空母も参加しているのは八隻だけで、これは太平洋に配備されたそれの半数にも満たなかった。

 だが、彼らにとってなにより深刻だったのは、各艦艇のそのいずれもが練度不足の未熟な若年兵を多数抱え込んでいたことだった。




 マーシャル諸島はすでに米軍の手に落ちて久しく、トラック諸島も米重爆と米機動部隊の挟撃によって無力化された現在、米軍の次の目標はマリアナかパラオのいずれかのはずだった。

 米第三艦隊がどちらに向かうにせよ、それを撃滅するという第一機動艦隊の目標は変わらない。


 その一機艦は友軍潜水艦から米艦隊がマーシャル諸島から出撃したという一報を受けて柱島泊地から出撃した。

 この時点で帝国海軍は通信傍受等の分析から米軍の目標がマリアナ諸島攻略にあると判断していた。

 一機艦司令長官は戦機を逃さないよう、燃費の悪化をしのんで艦隊を南へと急がせた。



 第一機動艦隊


 第一艦隊

 甲部隊

 空母「翔鶴」「瑞鶴」「千歳」「千代田」

 重巡「利根」

 軽巡「川内」

 駆逐艦「秋月」「照月」「涼月」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「朝霜」


 乙部隊

 空母「隼鷹」「飛鷹」「龍驤」「瑞鳳」「龍鳳」

 戦艦「長門」

 軽巡「大淀」「神通」

 駆逐艦「初月」「新月」「陽炎」「不知火」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」


 丙部隊

 空母「大鳳」「飛龍」「日進」「瑞穂」

 重巡「筑摩」

 軽巡「那珂」

 駆逐艦「若月」「冬月」「霞」「霰」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」


 各空母の搭載機

 「翔鶴」 烈風改四八機(四個中隊) 強風改一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「瑞鶴」 烈風改四八機(四個中隊) 強風改一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「千歳」 烈風改二四機(二個中隊)

 「千代田」烈風改二四機(二個中隊)

 「隼鷹」 烈風改二四機(二個中隊) 強風改一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「飛鷹」 烈風改二四機(二個中隊) 強風改一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「龍驤」 烈風改二四機(二個中隊) 強風改 四機(偵察一個小隊)

 「瑞鳳」 烈風改二四機(二個中隊)

 「龍鳳」 烈風改二四機(二個中隊)

 「大鳳」 烈風改三六機(三個中隊) 強風改一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「飛龍」 烈風改三六機(三個中隊) 強風改一二機(一個中隊)

 「日進」 烈風改二四機(二個中隊)

 「瑞穂」 烈風改二四機(二個中隊)



 第二艦隊

 第一遊撃部隊

 戦艦「大和」「武蔵」

 重巡「摩耶」「鳥海」「妙高」「羽黒」「足柄」「那智」

 軽巡「矢矧」

 駆逐艦「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「初風」「雪風」「天津風」「時津風」


 第二遊撃部隊

 戦艦「金剛」「榛名」

 重巡「愛宕」「高雄」「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」

 軽巡「能代」「阿賀野」

 駆逐艦「夕雲」「秋雲」「巻雲」「風雲」「長波」「巻波」「高波」「大波」「清波」「玉波」「涼波」「藤波」「早波」「浜波」「沖波」「岸波」




 一九四四年六月一一日、多数の米艦載機がサイパンとテニアンに来襲したという一報が日本政府に、連合艦隊に、そして一機艦に飛び込んできた。

 歴史で言うところの日米最大の決戦、「マリアナ沖海戦」の始まりであった。

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