第22話 戦闘機掃討

 夜明け三〇分前、マーシャル沖に展開する第一艦隊の空母「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「飛龍」と「蒼龍」からそれぞれ三機、合わせて一二機の強風が太平洋艦隊の姿を求めてそれぞれの母艦を発進。

 さらに夜明け直後には「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「龍驤」から各四機の強風が索敵第二陣として飛行甲板を蹴っていった。

 俺が後から聞いたところによると、当時の第一艦隊の七隻の空母の搭載機数は以下の通りだったという。



 「翔鶴」 烈風三六機(三個中隊)、強風二八機(二個中隊、偵察一個小隊)

 「瑞鶴」 烈風三六機(三個中隊)、強風二八機(二個中隊、偵察一個小隊)

 「龍驤」 烈風二四機(二個中隊)、強風 四機(偵察一個小隊)

 「飛龍」 烈風二四機(二個中隊)、強風二四機(二個中隊)

 「蒼龍」 烈風二四機(二個中隊)、強風二四機(二個中隊)

 「瑞鳳」 烈風二四機(二個中隊)

 「祥鳳」 烈風二四機(二個中隊)



 マーシャルに展開していた友軍の基地航空隊はすでに壊滅状態だった。

 夜明けと同時に来襲した米艦上機群の奇襲攻撃によってほとんどの機体が地上撃破されてしまったのだという。

 この当時の日本軍には電探を設置している陸上基地はごく一部の例外を除いてほとんど無かった。

 早期警戒能力の欠如とともに烈風や強風に対する行き過ぎた自信とそれに伴う油断が招いた惨劇だった。


 無様ともいえる敗北を喫したマーシャル基地航空隊の二の舞を避けるため、第一艦隊は攻撃任務にあたるはずだった強風の一部を割いてこれら機体を索敵に投入、太平洋艦隊の発見に万全を期した。

 そして、その成果はすぐにもたらされる。


 索敵機を出してから二時間近くが経ったころ、中央の索敵線を担当する強風から太平洋艦隊発見の報が入ってきたのだ。

 同機によれば、太平洋艦隊の編成は戦艦五隻を基幹とするグループが一つ、さらに空母二隻を中心とした輪形陣が二つとのことだった。

 第一艦隊司令長官はただちに第一次攻撃隊の発進を下令する。

 「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「瑞鳳」と「祥鳳」から烈風各一個中隊、それに誘導機として「瑞鶴」と「蒼龍」から強風各一機の計五〇機が出撃した。

 これらは、そのいずれもが敵艦隊の上空にある直援機の排除を目的とした戦闘機掃討部隊だった。

 さらに三〇分後には「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「飛龍」と「蒼龍」からそれぞれ烈風一二機に強風二〇機の合わせて一二八機からなる第二次攻撃隊が発進、強風隊のうち八機は爆装、残る一二機は魚雷を装備していた。




 第一次攻撃隊に編入された俺は列機を従えつつも眼下の海や太陽の陰など、周辺警戒を怠らない。

 年明けに行われたウェーク島沖海戦では、米戦闘機は母艦からかなり離れた位置から俺たちに攻撃を仕掛けてきた。

 その米軍が電探という装置を使って俺たちの動向を探知していると聞いたのはウェーク島沖海戦が終わってしばらくしてからのことだった。

 だから、俺たちの存在はすでに米軍に知られていると考えるべきだった。


 その米戦闘機は意外にも正面から堂々とその姿を現した。

 一〇機ほどの編隊が八つある。

 おそらく俺たちが五〇機ほどの編隊だということもすでに分かっており、数的に優位な自分たちがわざわざ奇襲をしかけるまでも無いと考えたのだろう。

 まあ、一般的に母艦から発進した攻撃隊なら、ふつうに考えれば半分が戦闘機、半分が雷撃機か爆撃機と考えるだろう。

 それにしても米軍、七〇機から八〇機もの直掩戦闘機を用意していやがったか。

 やっぱり空母が四杯もあれば迎撃機も豊富だ。

 上層部が第一次攻撃隊を烈風で固めた判断は大正解といったところか。


 敵の機影を認めた俺たちは一気に上昇する。

 米軍のF4Fに対して烈風が上昇力で優位にあるのは前回の戦いからすでに分かっていた。

 一方、米戦闘機の搭乗員らはよもや俺たちがすべて戦闘機で固めているとは思わなかったのだろう。

 彼らは上昇よりも俺たちとの距離を詰めるほうにパワーリソースを使った。

 俺たちの全戦闘機編成は米戦闘機隊にとって戦術的奇襲となった。


 敵が精神的衝撃から立ち直らないうちに烈風隊は仕掛ける。

 俺もまた敵の斜め上方から一気に降下しつつカウンター気味に機銃を撃ち下ろす。

 位置エネルギーを速度エネルギーに置換していることで烈風は文字通り一陣の風と化しているが、逆に相対速度が速いから射撃の機会は一瞬でしかない。

 そして、俺は案の定というか全弾外してしまう。

 まったくもって情けない!

 しかし、後方の武藤一飛曹はこの手の機動にも手慣れたもので、狙い過たず一機のF4Fに射弾を集中させ、誰が見ても文句なしの撃墜を成し遂げていた。

 武藤一飛曹との腕の差にがっくりしつつもそれは一瞬のこと。

 俺は降下で得た機速を極力殺さないような機動を心掛け、敵機の背後をとるべく旋回をかける。

 そのときには機先を制されたF4Fは散り散りとなり、数的優位もすでに過去のものとなっている。

 そして、最初から守るべきもののない、プレッシャーから解放されている烈風隊はF4Fを狩りまくった。


 後で聞いた話だが、この一戦だけで武藤一飛曹と岩本一飛曹はそれぞれ二機、西沢二飛曹にいたってはなんと三機も墜としたという。

 そして、最も戦果を求められる一番機の俺はといえば、ムキになって散々に追いかけ回したF4Fをようやくのことで一機墜とすのが精いっぱいだった。

 悔しいが、そんな不甲斐ない俺と、一方で一撃であっさりと敵機を屠ってしまう列機どもとの腕の差はいまだに大きいと認めざるを得ない。

 ちくしょう!

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