ウェーク島沖海戦
第12話 決号作戦
ウェーク島攻略における一連の作戦は一時棚上げとなった。
作戦を担当する第四艦隊がウェーク島の陸上砲台やあるいは同島に展開するF4Fワイルドキャットと思われる戦闘機によって駆逐艦「疾風」ならびに「如月」を撃沈されるといった大きな損害を被り、同地の攻略に手間取っている間にハワイの太平洋艦隊が動きだす兆候が見られたからだ。
太平洋艦隊の詳しい出撃日時や目的は分かっていないが、それでもウェーク島で孤軍奮闘する味方を見捨ててマーシャル攻略にその矛先を向けるということは考えられなかった。
太平洋艦隊の出撃準備情報を受け、連合艦隊は「決号作戦」を発令する。
南方資源地帯攻略に携わる部隊を除くほとんどの有力艦艇を投入する、日本の未来を左右する一大作戦だった。
第一艦隊
戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」「比叡」「霧島」
重巡「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」
軽巡「北上」「大井」
駆逐艦「白露」「時雨」「有明」「夕暮」「初春」「子ノ日」「初霜」「若葉」「曙」「朧」「潮」「漣」
第一航空艦隊
「赤城」 烈風二四機(二個中隊) 強風三二機(二個中隊、偵察二個小隊)
「加賀」 烈風三六機(三個中隊) 強風三二機(二個中隊、偵察二個小隊)
「蒼龍」 烈風二四機(二個中隊) 強風二四機(二個中隊)
「飛龍」 烈風二四機(二個中隊) 強風二四機(二個中隊)
「翔鶴」 烈風三六機(三個中隊) 強風二八機(二個中隊、偵察一個小隊)
「瑞鶴」 烈風三六機(三個中隊) 強風二八機(二個中隊、偵察一個小隊)
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「阿武隈」
駆逐艦「谷風」「浦風」「浜風」「磯風」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「秋雲」
補給隊
駆逐艦「三日月」「夕風」「矢風」「帆風」
油槽船一〇
俺が太平洋艦隊を迎え撃つ第一艦隊ならびに第一航空艦隊の全容を知ったのはずいぶんと後のことだった。
このうち、第一艦隊は戦艦が八隻に巡洋艦が六隻、それに駆逐艦一二隻からなる砲戦部隊だ。
第一艦隊には南方作戦に投入された「金剛」と「榛名」を除くすべての戦艦が集中配備されている半面で、巡洋艦や駆逐艦のほうはその数が少ない。
これは、巡洋艦や駆逐艦のその多くが南方作戦に投入されているためだ。
第一艦隊に参加しているものにしても、第六戦隊の四隻の重巡はグアム攻略作戦を中抜けして同艦隊に合流しているし、駆逐艦もその三分の一が押っ取り刀のような有り様でこれに参陣していた。
それでも、これまで帝国海軍において最優先で予算や資材、それに優秀な人材をあてがわれてきた第一艦隊の将兵の士気は高い。
四一センチ砲を搭載し、新型戦艦を除くすべての米戦艦に対して優位に立つと信じる「長門」と「陸奥」。
防御力にこそ少しばかりの難を抱えるものの、それでも速力で米戦艦を凌駕し、さらに一二門もの三六センチ砲を装備する攻撃力抜群の「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」。
時に巡洋艦的用法も可能とするほどの韋駄天を誇る「比叡」と「霧島」。
その圧倒的戦力を裏付けとし、第一艦隊の将兵の多くは太平洋艦隊なにするものぞと気炎を揚げていたという。
一方、一航艦のほうは艦上機隊こそ補充を受けて定数を回復させていたものの、空母を守る護衛艦艇に増勢は無く、その少なさは第一艦隊と同様に隠しようが無い。
六隻もの空母を擁しながら、その護衛が三隻の巡洋艦と九隻の駆逐艦にしか過ぎなかったから、それら艦の対空火器による支援はほとんど期待できなかった。
それでも、すでにフィリピンで実戦を経た、しかも勝利した一航艦もまたその鼻息は荒い。
烈風搭乗員のその誰もが米海軍のF4FあるいはF2Aバファロー戦闘機との戦いを待ちわび、強風搭乗員の多くが米空母や米戦艦のその横腹に魚雷をぶち込むことを夢想している。
そして、それら搭乗員の多くが自分だけは死ぬことはないと考えていた。
予想外に早い出撃の兆候を見せた太平洋艦隊に対し、連合艦隊司令部は若干の衝撃を受けはしたものの、一方でそれは同司令部にとってはそれほど都合が悪いものでもなかった。
連合艦隊司令部が最も恐れるシナリオは太平洋艦隊と大西洋艦隊の洋上戦力が糾合されることだ。
新旧一七隻の戦艦で太平洋を押し渡ってこられたら、連合艦隊にこれに抗する術は無い。
だが、太平洋艦隊はその前に各個撃破の機会をわざわざつくってくれようとしている。
だからこそ、その挑戦から逃げるという選択肢は連合艦隊にはなかった。
一方の太平洋艦隊も現時点での日本の連合艦隊との決戦は望むところだった。
現在、日本は戦艦二隻に重巡一二隻、他にも水上機母艦や軽巡をはじめとした膨大な戦力を南方戦域に投入している。
その日本の南方作戦が成功裡に終われば、これら戦力が連合艦隊の戦艦部隊に合流することは目に見えている。
もしそうなれば、太平洋正面における太平洋艦隊の巡洋艦ならびに駆逐艦の数の優位は失われ、逆に数的劣勢に立たされてしまうだろう。
だからこそ、太平洋艦隊は自分たちの戦備が十分に整っていないことを自覚しつつも連合艦隊との早期決戦を志向した。
連合艦隊司令部と太平洋艦隊司令部の思惑が合致した以上、両国の艦隊が激突するのは不可避だった。
昭和一六年一二月二七日、柱島泊地にあった第一艦隊と一航艦は太平洋艦隊出撃の報を受け抜錨した。
このとき、日米両軍はその誰もが自軍の勝利を疑っていなかった。
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