「大嫌い」

私、高橋旭には最近、いやずっと前から気になっている人がいる。


隣のクラスの雄也くんだ。


雄也くんとは1年生の時まで同じクラスで、その時から仲が良かった。


家も同じ方向だったから、6限目が終わった後に待ち合わせをして、よく一緒に帰っていた。


帰り道には学校から歩いてすぐのコンビニで2つに割って食べれるアイスを分けて一緒に食べていた。


お互いに気の置けない関係だったけど、付き合ってはいなかった。


もちろん私は彼のことは好きだった。


だけど彼はどうなのか分からない。


彼は性別関係なく皆と仲良かった。


それに、そんな彼だから彼女がいるなんて噂が後を絶たなかった。


そんな彼に告白する勇気なんてその時の私にはなかった。


彼と仲良くなってから2年が経とうとしている。


今日こそ雄也くんに告白しよう。


そう思い今週の日曜日、雄也くんと遊ぶ約束をした。


まだ月曜日なのに緊張で勉強には集中出来ていなかった。


流石に今週の中間テストの勉強もしなきゃ行けないし、誰かに告白することを話して落ち着きたかった、なので私は、友達の小夜を家に呼ぶことにした。


小夜を初めて家に誘ったけど、なんのためらいもなく、家に来てくれた。


2時間くらい勉強をして、前の日にやっていた、アニメの話や、好きな歌い手さんの新しく上がったMVを見て、感想を言い合ったりしていた。


そろそろ、雄也くんに告白することを聞いて欲しくて私はそのことを話すことにした。


「そういえば、今週、雄也くんに告白しようと思うんだよね。」


一瞬、小夜がの顔が曇ったように見えた。


何か、不味いこと言ったかな…。


もしかしたら小夜も雄也くんを好きなのかな。


そんな思考がよぎったけど、小夜と話したことないって雄也くんが言ってたのを思い出した。


小夜も好きな人の話したかったのかな、そう思い私は

「小夜は好きな人いないの?」


と小夜に聞いてみた。少し返事が遅れて小夜が

「あはは、いないよ〜その、好きな人ってどんな人なの?」


と聞いてくれた。さっきの小夜の表情は気になるけど。気のせいだと思うことにした。


「えっとね、声がかっこよくて、話してて心地よくて、歌が上手いんだよ!」


「へー、歌が上手いんだね〜歌上手い人かっこいいよね!」


「そうそう!ほんとにかっこいいの!」

「そういえばいつ告白するの?」


「日曜日に一緒に出掛けて、その日にしようかな。」


「いいじゃん!僕は応援してるよ!!」


そう言ってくれたけどやっぱり顔は笑っていなかった。



小夜が帰った、私は小夜が暗い顔をしてたのがちょっぴり悲しかった。


誰かに構って欲しくなった私は、幼馴染の圭にLINEをすることにした。


圭は幼稚園からずっと一緒で家も近かったこともあり、うちに来て一緒にご飯を食べたり。


一緒に買い物に行ったりしてた。


中学以来それもなくなったけど、LINEはずっと続けてる。


困った時には相談に乗ってくれるし、頼れる幼馴染だ。


気を使う仲でもないし私は早速LINEを送った。


「けー!聞いて!」

「私、彼に告白しようと思う!!」


彼のことは何度も相談してるし圭なら応援してくれるはず。


送ってすぐ既読が付いた。


返事が来ないので先にご飯を食べることにした。今晩のメニューはシャケのホイル焼きとにきんぴらごぼうとご飯と味噌汁。


私の好きなメニューだ。


圭には渋いって言われてたっけな。


好きなメニューだからすぐに完食してしまった。


おかわりしようと思ったけど最近体重が気になる。


それに、今週末に備えて、少しは痩せておきたいので諦めることにした。


スマホを見ると圭から返事が帰ってきてた。


「いつ告白するの?」


と来てた。


やっぱり興味を持ってくれた。流石圭だな。私は

「日曜日だよ〜」


と返した。


すると直ぐに

「土曜日暇なら久しぶりにメシ行こ」

「詳しく聞きたい」


圭にしてはいつもに増して積極的だったので、びっくりした。


圭がそんなに興味持ってくれるって嬉しいな。やっぱり前から応援してくれてたのか。


私は上機嫌で土曜日にカフェに行く約束をした。


圭とは家が近いけど別々に行くことになった。圭からの提案だった。


久しぶりだし、せっかくだから一緒に行きたかったのに。


支度が終わって、集合時間まであったからアプリで漫画を読んでいた。


ていうか、ちょっと読みすぎた。


ここからカフェまで20分かかるのに目的の時間の15分前だった。


本当なら走っていかなきゃ行けないけど服装的にも走りたくなかったし、相手が圭だということもあったから。


「5分くらい遅れる」

とLINEをしてゆっくり歩いていくことにした。


到着しても圭はいつもの顔だった。怒ってなくてよかった。


カフェの中に入り、圭はガトーショコラ、私はパンケーキをたのんだ。


ふわふわで甘くてとても美味しいパンケーキが来た。


「おいしい!けーも食べる?」

って冗談で言ったら


「いらん」

って軽くあしらわれた。


私がパンケーキを口に運ぼうとすると、圭いきなり

「そういえばそいつってどんなところがいいの?」

って聞いてきた。


圭くん、そんなに気になるのかい。


そーだな。


「えー?岸田くん?声がいいとこと、歌が上手いところと、勉強が出来て頭のいい所かな。」


そう。


彼は声が良くて、歌が上手い。


初めてカラオケに一緒に行った時は衝撃で目が乾燥して痛いくらいずっと目が開いたままだった。それくらい上手い。


それに頭が良くて話も面白いから、彼がクラスで人気なのも納得出来る。


「なるほどなー、そんなにそいつがいいんだ。」


圭がそいつって言うのはちょっと腹がたったけど気にしないでおいた。


「うん、だってね、彼が、旭と話してると本当に時間忘れちゃうくらい楽しい、こんなに一緒にいたいなんて思えたの旭だけだよ。って言ってくれたの。」


そんなこと言ってくれるの岸田くんしか居ないよね。それに私だけだって言ってくれるなんて…、

今思い出してもちょっと照れる。


圭は

「へー」

しか言ってくれなかった。


聞いてきたのは圭なのに…、


しばらく無言になりながらパンケーキを食べていた。


すると圭が

「そういえばその服なんて言うの?」

って、なんでそんなこと聞くのか分からなかったけど私は、

「カーディガンだよ、オシャレ知らなすぎじゃない?」

って茶化したのに無視された。


今日の圭はいつもの圭じゃなかった。


その後はほとんど話さずに解散になった。



小夜も圭も最近どうしたんだろう。


そんなに私が岸田くんに告白するのはおかしい?


そんなに釣り合わない?


背中を押してもらおうと思ったのに、逆に不安になった。


明日が怖い。


その日の夜は寝れなかった。


私は腫れたまぶたを隠すためにいつもより少し厚めにファンデを塗って、いつもより気合いを入れてメイクした。


服装もおかしくない!


髪もしっかりとセットした!


大丈夫!


今日の私はいつもより可愛いよ!


大丈夫!


絶対成功する!


そう言い聞かせ玄関の扉を開いた。


彼と待ち合わせのカラオケに10分早く着いた。


彼は5分に来て、「早く着きすぎちゃったね」って2人で笑いながら、受付を済ませた。


17番の部屋に入る。


私がスマホで曲を探していると岸田くんが1つ曲を予約した。


その曲はギターとボーカルのみの曲で同じ伴奏が最初から最後まで続く。


曲のわかりやすさと、歌詞の共感のしやすさで去年ヒットした曲だ。


彼とカラオケに来た時はいつもこの曲を、1番最初に歌ってくれる。


岸田くんの歌に聞き惚れていて、ラスサビまで曲を選ぶのを忘れていた。


私は好きな歌い手のオリ曲を入れるのを我慢して、岸田くんも知っている、同じく去年流行ったアニメの主題歌を急いで入れた。


彼はすぐに曲を入れて最初から最後までしっかりと聴いてくれていた。


楽しい時間はあっという間に過ぎる。岸田が言ってくれたみたいに、私もこんなに一緒にいたいと思えたのは彼が初めてだ。


結局、昼から居たカラオケを出たのは17時間だった。冬になって、最近まではこの時間はまだ明るかったのに、今日はもう空も暗くなり、肌が痛いくらい外の空気は冷え込んでいた。


指先が冷たかった。


そんな中手と手が触れ合うか触れ合わないかの距離を私たちは歩いていた。


「寒いね。手袋持ってくれば良かった。」


何気なく私は呟いた。すると、急に手が暖かくなった。


一瞬戸惑い、私は自分の手を見てみると彼の手が私の手を握っていた。


頭が真っ白になった。


私は足を止めてしまった。


彼が優しい声で

「嫌?」

って聞いてくれた。


嫌なわけないのに私は彼の優しさに泣いてしまった。


私は泣きながら首を横に振る。


彼が背中をさすってくれた。


私は目から涙が更に溢れた。


少し落ち着いた私は彼の手を繋ぎ返すと、彼は恋人繋ぎに組み替えてくれた。


その日はそのまま彼の家にお邪魔した。


遅い時間まで居たけど彼の両親は帰って来なかった。





雄也くんとの日々は幸せだなんて言葉で表せないそんな日々だった。


できる日は毎日通話したし、週末はお互いの家に行ったり。


遊園地に行ったり。


水族館に行ったり。


公園でのんびり過ごしたり。


本当に今までの人生で1番楽しかった。


多分これからの人生の中でもそうだと思う。


やっぱり雄也くんの言う通り楽しい時間は一瞬で過ぎる。


高校3年生の秋”まで”、私たちは順風満帆な日々を過ごしていた。


そう"まで"はだった。


彼は最近同じ部活の浅野さんと一緒に帰ってるという噂を聞いた。


そのせいか週末は部活で忙しいと言う理由で全然遊びに行けてない。


通話も勉強が忙しいだと言われ最近出来てない。


明らかに冷たくなった。



最近、泣かない夜はない。


辛いという気持ちをを彼に伝えようと思った。


だけど2ヶ月前の出来事から彼の視線が怖い。


彼は2ヶ月前にも1度冷たい時期があった。


その時に浮気を疑ってしまった私は、彼がトイレに行っている間に彼のLINEを勝手に覗いた。


浮気はしていなかった。


スマホに夢中になってて彼が帰って来ているのに気付かなかった。


その時の彼の視線は今思い出しても身体が震えてくる。


私が疑ったせいで彼は2週間はLINEも返してくれなかった。


だけどそのあと彼が

「冷たくしてるつもりはなかった。」


「反省してる。」


と言ってくれた。


私の気持ちが伝わったのか、そのあとは通話もちゃんとしてくれていた。


その頃のこともあって、彼のことは疑いたくないし。


少し女の子と帰ったくらいで怒るのは違うと思う。


明日には文化祭もある。


気持ちを切り替えよう。


彼と一緒に回る約束もしてあるし、素直に楽しみだ。


私は布団に入ろうとした。


その時、彼からLINEが来た。


「文化祭、同じ部活の人が怪我してて心配だから一緒にいてやりたい。」


私は届いた通知の意味がわからなかった。


「それってどういうこと?」


「明日は一緒に回れない」





私は当日、親友の小夜と文化祭を回ることにした。


文化祭では1度も彼と話さなかった。




それから、ほとんど連絡すらしてない。


もう3ヶ月も経ったというのに、私はその出来事を引きずっていた。


彼のことはもう好きなのかすら分からない。


彼は頭が良くて優しいからみんなにモテる、それは私も理解してる。


私が惹かれたのもそんなとこだったからだ。


だから少しくらい女の子と遊んだり、話したりする分には許していたつもりだ。


嫉妬はしていたけど。


この関係が終わらなければそれでいいと思ってた。


だけどやっぱり辛いよ。



そんな事を考えていたけどまだLINEは来ない。


それでも、私の気持ちは前よりは落ち着いていた。


気分転換に晩御飯を作ろうと思い。


それの食材を買いにスーパーに来ていた。


今日の鍋に使う大根と白菜と半額のシールが付いた豚肉を買い私はスーパーを後にする。


帰り道、私は目にしてしまう。


彼と浅野さんが恋人繋ぎで手を繋いで歩いているところを、私は吐き気を催し近くの公園のトイレに駆け込む。


なんで、2人で一緒に歩いているの?


なんで、雄也くんの家の方へ向かって恋人繋ぎで歩いているの?


なんで、


なんで、


なんで、


なんで私じゃなくてあの人なの、


なんで、


せっかく気持ちを切り替えようとしてるのに、


なんでなんで、


なんで、


なんで!!




私と付き合ってるんじゃないの?


私だけって言ってくれたのは嘘だったの?


私はもう用済みなの?


私は彼の何を信じればいいの?


私は彼がもっと怖くなった。


だけど。


今まで彼がしてくれたことが映像となって頭に流れてくる。

私は彼のことが

「大嫌い」にはなれなかった。

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