第43話2.43 俺ってそんなに信用無いのかな
町に戻って早々、俺は魔獣駆除組合のハッサン組合長に呼び出され、組合長室で険しい顔のハッサン組合長とダリア副組合長――出撃の時にもいた森人族の女性――に問い詰められていた。
「それで、何処で油を売っていた? え、クアルレン」
「それは――」
「ラークレインが大変な時に、勝手な行動をとるなど言語道断。赤の勇者様や青の賢者様という強力な援軍があったからよかったものの、理由によっては降格処分にするぞ!」
「いや、話を――」
「それに、大体なんなのだ? その仮面は。素顔を隠して裏で粋がっている痛い奴なのか」
鼻息荒いハッサン組合長。俺も何とか口を開こうとするが全くこっちの話す機会を与えてくれない。
困り果てているところを隣で見ていたダリア副組合長が諫めてくれた。
「待ってください。ハッサン組合長。まずはクアルレンさんの言い分を聞きましょう」
「……分かった。で? どこに行っていた?」
副組合長の言葉に素直に従う組合長、だが表情は険しいままだ。その表情に俺は少し緊張しながら口を開いた。
「魔獣の発生源と思われる場所に向かい、そこで黒幕らしき人物と交戦した」
「な、なんだとう⁉」
俺のたった一言で、大声を上げるハッサン組合長。怒気のこもった声で聞いてきた。
「それで、そいつはどうなった⁉」
「逃げられた」
「貴様ー! やはり降格だー!」
がなり立てる組合長であるが副組合長は冷静だった。
「組合長、待ってください。今の話では降格処分は出来ません。それよりもクアルレンさんももう少し詳しく……」
突っ走る組合長に止める副組合長。どうやら二人は良いコンビのようだ。
そう思うと笑みがこぼれそうになるが、今はまずい。未だ、組合長の表情は一切緩んでいない。
ここで笑おうものなら、蹴りが飛んできても不思議ではない。まぁ、蹴りが飛んできても避けれらるのだけど、それはそれでさらに怒らせるだけだ。
だから俺は、努めて冷静に口を開いた。
「対戦したのはハチと名乗る人物と、ゴウと名乗る人物で――」
と二人の戦闘スタイルや特徴について話をしていく。バイオレットが
そして本当かどうかは分からないけど、と前置きしてハチがルーシア聖教の司祭と名乗ったと告げたところでダリア副組合長が聞こえるかどうかの音量でつぶやいた。
「丘人族至上主義のルーシア聖教……」
その言葉に思うところがあったのだろうハッサン組合長、ダリア副組合長を凝視する。
俺も話をいったん止め、副組合長へと目をやると――
「組合長。すぐに紅龍爵様の元へと参りましょう」
部屋を飛び出して行ってしまったのだった。
確かに領主へと報告するべき案件なのだろうが、敵の行方は今のところ分からない。手続きを飛ばすほど急ぐ必要があるとは思えなかった。
訳が分からない、と俺が訝しんでいると、副組合長の突然の行動に気を抜かれたのだろう。ハッサン組合長、ため息をつきながら椅子の背もたれへと身体を任せていた。
「ダリアめ。俺の許可を取れよな。……それと、クアルレン。紅龍爵様のところでもう一度話をしてくれ。拒否権はないぞ」
気の抜けた声なのに、有無を言わせぬ雰囲気を醸し出すハッサン組合長。俺としても話をするのは構わないから拒否するつもりもないのだが、一つ気になったので聞いておいた。
「ルーシア聖教の干渉は初めてではないのか?」
この問いに苦虫を潰したような表情を浮かべた組合長。言葉を選びながら口を開いた。
「……奴らが関与した証拠はない。噂レベルの話だ。だが確実に干渉はある」
組合長の断言を聞いた俺はこの件は後を引きそうだと感じていた。
「そうか。自らルーシア教の名前を出したのだな」
「はい。司祭だと言っていました」
「そして、その司祭が魔獣の召喚をおこなっていたと」
「はい。なにかしらの道具を使って。魔獣を呼び出しました。あと、人を
「そうか。分かった。もういいぞ」
「では。失礼します」
これは俺が爺様、いや紅龍爵様に見たことを話し終えた後の会話だ。そして、この会話を終えた後、俺は解放された。
しばらくして。
人形を脱ぎアルへと戻った俺は、ラスティ先生をはじめとした俺の表と裏を知る人たちとテーブルを囲んでいた。
「で、実際のところ、どうだったの?」
「いや、ラスティ先生、さっき爺様のとこでも聞いていたでしょう?」
「聞いたわ。確かに初めから終わりまで聞いたわ。でもねぇ。隠し事の多いアル君のことだから何か隠してないか気になるのよねぇ。シェールちゃん」
「確かに。言われるとそうですね。サーヤもそう思うでしょ」
「はいです!」
目を合わせ頷く女性陣。
「へぇ~。気を付けんとなぁ~」
サクラですら何かを勝手に納得している始末。なんだよ俺ってそんなに隠し事多いか? って一人考え込んでしまう。
すると。
「「「「本当にないの」」」」
今度は四人全員で聞いてきた。
「ないよ。隠している事なんて。必要ないから言わなかったことはあるけど……」
「なんだ。やっぱりあるのね」
シェールが、したり顔を浮かべている。
「いや、必要ないだろう? ゴウが女だとかいう――」
情報は、と続けようとしたところで、俺は寒気を感じて止めた。だが手遅れだったようだ。なぜか女性陣四人ともが訝し気な目をしてこちらを見ているのだから。
「な、なに?」
俺は慌てて皆に問う。すると。
「また、新しい女なの?」
「胸は大きい?」
「仲良くなれそうです?」
「もう口説いたんか?」
シェール、ラスティ先生、サーヤ、サクラの順で返ってくる質問。いったい何なのだ。俺は女なら敵でも口説くというのか? これまで、そんなことしてないと思うのだけど。
「いや、敵だから。絶対殺す! って殺気ガンガン飛ばしてくる敵だから」
事実、傷つけられたし。と説明するも。
「今度からは、誰か一緒に行ったほうが良いと思う」
「そうね。私が目を光らせるわ」
「先生、お願いしますです!」
「任せるわ」
女性陣たちだけで話は完結していた。
ちなみに、そこにいたビルとユーヤ兄は――。
「これは、関わってはいけないやつだ」
「んん!」
二人で頷き合い。椅子の上で小さくなっていた。
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