第41話2.41 裏から探ってみました
「このあたりだと思うのだけど」
火蜥蜴の群れへと飛び込んで砂煙に巻かれた俺は、すぐに理術『転移』を発動させて戦場から離れ、ラークレイン北方、魔獣が突然現れたと思われる森にやって来ていた。
森の中を歩きながら気配を探る――と森の中ほどに微かな違和感がある事に気が付いた。
何かを隠そうとして巧妙に隠ぺい工作をした結果、やりすぎて変に目立ってしまっている。
そんな雰囲気の場所の近くで俺は立ち止まり声を上げた。
「ふむ、コソコソ隠れてないで出てきたらどうだ」
何かを隠そうとしているだけで、誰かがいるかは分からない。だから返事はないかもしれない。だったら恥ずかしいな、なんて思いながら発した言葉に――
「な、なぜ分かった!」
返事はあった。さらに感じられていた違和感が消え、陰鬱な顔をした男が現れた。
「ふむ、どうやら恥をかかずに済んだようだ」
安堵する俺。
「カマをかけただけだったのか⁉ 俺は何て間抜けなのだ!」
対する男は頭を抱えて喚いている。
「いや、勘ではないよ。ちゃんと違和感を覚えて、ここに来た」
「それこそ、馬鹿な! 俺の潜伏術は完璧なはずだ」
「それが、そうでもない。完璧を目指しすぎて変に浮いていたから、この場所」
男のいた場所を指さしながら話す俺の言葉に、男は膝から崩れ落ちていた。
「う、そ、だ、俺が、どれだけ時間をかけて……」
言葉に詰まる男に俺は本題を切り出すことにした。かくれんぼをしに来たのではないのだ。男の潜伏術に付き合っている暇はない。
「で、あんたが魔獣をけしかけた張本人で間違いないのだな」
四つん這いで項垂れていた男の肩がピクリと揺れる。
「な、何のことだ」
あからさまに動揺している男に俺はさらに言葉を重ねる。
「しらばっくれても無駄だよ。ラークレインから感じていたけど、このあたりから魔獣が発生していたことは間違いない。そして、その場所に潜んでいる人がいる。関係ないなんて言われて信じる人がいると思うのか?」
俺の言葉を聞いた、さらに肩がビクビクする男。そんな態度で、なぜ騙せると思うのか不思議なほどだ。
「くそ、ばれたのなら仕方ない。そうだ。俺が魔獣を召喚したのだ。こうやってな!」
突然開き直った男、何やら杖のようなものを翳し、理力を込める。すると何もない場所に魔獣ではなく、真っ赤な髪を持つ森人族の男が現れた。
「バイオレット⁉」
「ほう、知りあいか?」
「直接ではないがな……」
やばいやばい、今はクアルレンだった、とごまかしつつバイオレットの動きを注視する。
「殺す……殺す……殺す……殺す……殺す……殺す……」
壊れた玩具のように同じ言葉を繰り返すバイオレット。今の俺にとって敵ではないはずなのだが、なんだか不気味さを感じる。攻撃を躊躇した俺は様子を見ることにした。
「というか、現れたのは人だな。魔獣じゃないのか?」
「はぁ⁉ 細かいことを気にするやつだな!」
些細な指摘に大げさに反応する陰鬱な男へ俺は話を続ける。
「しかも、召喚でなく時空理術の一種だな」
「な、時空魔術を知っているのか⁉ 貴様、生きて返すわけにはいかないようだな」
俺の言葉に驚愕の表情を浮かべた男、物騒な事を言い出す。
さらには。
「よし、知り合いなら攻撃し辛いだろう、こいつを殺せ!」
陰鬱な男はバイオレットに攻撃の命令を下した。
こうして始まった戦いだったけど、俺の無造作に振り抜いた一刀で終わろうとしていた。
「な、貴様、知り合いだろう⁉ ちょっとは躊躇しろよ!」
またしても驚愕の表情を浮かべる男に俺は困ってしまっていた。
不気味さを感じさせたバイオレット、普通に火理術を放っただけだったから。
さらに言うと、振り抜いたのも抜き身の刀ではなく鞘に入ったままの刀をバットのように振っただけだ。その一刀でバイオレットは吹き飛び仰向けになって泡を吹いていた。
「くそ! 魔術で強化改造しているはずなのに‼」
バイオレットの様子を見て物騒な言葉を吐く陰鬱な男。
「何だか、警戒していた俺がバカみたいだ……」
ため息をつきながら俺は同じように刀を振る。だが手ごたえはなかった。
刀が当たる直前に理術を発動させたようで、泡を吹くバイオレットのところへと転移していた。
「くそっ! 仕方がない‼ 魔獣化だ‼‼」
陰鬱な男は叫びながらバイオレットの口に何かを押し込む。遠目で見た感じでは。
「魔石?」
のように見えた。
「ふはははは、そうだ。この森の主だった
ギシャァァァァァァーーー
おぞましい声を上げながら巨大化していくバイオレット。その姿は、かつてバイオレットが使った火理術サラマンダーと同じ姿だった。
――いや、バイオレットが
どちらでもいいことを考えているうちにバイオレットは陰鬱な男が言うところの
俺はサラマンダーと対峙する。その感想は。
――確かに強い力を感じる。けど、俺の敵ではない
だった。
「
叫ぶ陰鬱な男に応えるかのように、
俺は
ぎぃしゃぁ
小さく鳴いた
胴体から離れてしまって!
ぎぃ、しゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー
金切り声を上げて鳴く
さらには体が小さくなっていく
「な、ん、だ、と……」
陰鬱な男は腰を抜かしたように座り込んでしまう。俺が目を向けると、何か言い始めた。
「ま、まて、俺を殺す気か。そんなことをすれば、仲間が黙っていないぞ。いいのか、俺は人族至上主義のルーシア聖教の司祭で、今回は亜人たちと仲良く暮らす紅龍爵領に天罰を――」
聞いてもいないことをべらべらと話す男。清々しいほどの雑魚だった。
「――だからな。俺を殺すと、一族郎党に至るまで報復されることになるのだ。分かったか!」
最後には、どや顔で脅す男。その男の姿に俺は盛大なため息がでる。いやほんと呆れてしまった。
何かもっと黒く悪質な陰謀――いや、十分な陰謀なのだが――を考えていた俺の横腹に衝撃が走り、吹き飛ばされた。
「ぐ!」
木に激突し衝撃を受けながらも体勢を立て直した俺が元居た場所に目を向けると、二人の人間の姿が目に入る。仲間が現れたようだった。
「ふはははは、油断したなぁ。俺の演技にまんまと騙されやがって」
「……話過ぎ……」
得意げに語る男に諫めるような声を掛けるのは何処からともなく現れた三人目の敵だった。口まで覆う真っ黒な頭巾をかぶった暗殺者のような恰好の。
「近くに気配はなかったという事は、バイオレットを呼び寄せたのと同じ時空理術系の術か……」
つぶやく俺に訝しげな眼を向けてきた二人目の男。一人目の男に目で問いただす。すると。
「そうだ、ゴウ。こいつ、時空魔術のこと知っている。もしかしたら、例の一族の生き残りかもしれない。捕まえて――ごふぅ」
話始めた一人目の男、ゴウと呼ばれた二番目の男の裏拳を受けて口を閉じた。
「ハチ、やっぱり話過ぎ――」
言いつつも、頭巾で覆われた口元を押え言葉を止めるゴウ。自分も『ハチ』という名を口にして情報を与えてしまった事に気が付いたようだった。
「……殺す……」
懐から短剣を取り出すゴウ。有無を言わさず飛び掛かってきた。
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