第25話1.25 詰め込みすぎだと思うのですが



 『鍛冶』と『付与』の真龍登場から、さらに数週間後。


「今日より、我らも加わろう」


 理力が増え滞在時間の伸びた俺の元に4人の真龍たちが加わった。

 聞けば、『火』と『水』と『土』と『風』それぞれの理術を極めた真龍たちということだった。


「火とはエネルギーの塊である。中丹田で熱い思いを練り上げるのだ!」

「水というのは生命の源よ。中丹田だけでなく上丹田も少し混ぜて練ると上手にできるわ」

「土とは小さな粒の集合体ぞ。そこを意識して術を発動するとよいぞ」

「風って見えないわよね。でもね。必ずそこにあるの。目だけに頼らず耳や肌で感じるようにするといいわ」


 それぞれに教えを話していく真龍たち。一部、熱い思いとか精神論で意味不明だったけど、概ね分かりやすく教えてくれそうだった。


 そんな中。


「俺の元の世界では、土だけじゃなく風も水もすべで原子と呼ばれる小さな粒の集合体と分かっていて、火もその原子の振動が激しくなった結果、酸素原子が結合する化学反応って言われてるんだけど、ジアスでは違うの?」


 俺は素朴な疑問を投げかけた。

 すると。


「なんと、異世界ではそのような解釈をしているのか」

「その話は情報空間に上がっているのかしら」

「すぐに読み込もうぞ」

「こうしてはいられないわ」


 今度は、俺をほったらかしにして自分たちの世界に入り込んでしまった。

 その結果、次の機会からは地球の知識を自らの物とし、さらに腕を上げた真龍たちが教えてくれるようになった。

 俺の知っている科学などすぐに吸収したようだった。


 そんなこんなで、日ごとに各々の得意分野を教え込む真龍達の訓練は、毎日、俺の理力が尽きるまで行われた。




「訓練は順調なんか」


 訓練が始まって数か月――体感的には……もはや時間が分からないぐらい――たった頃、理力が尽きて気力を失って机に突っ伏している俺に、声を掛けてきたのはサクラだ。

 だが、理力をギリギリまで使い切った俺には顔を上げる気力すらなかった。


「ちょっと、聞こえとるんやろ、返事ぐらいしいよ。それとも何か? このお菓子いらんのか」


 棘のある言葉を放つサクラ。俺はというと、悲しいかな、お菓子という単語に反応してしまった。


 上体を起こす俺。その前にお菓子が置かれた。


「で、どうなん?」


 再びサクラが口を開く。だが、ちょっと遅かった。すでに俺の口の中は、お菓子でいっぱいだったから。

 なにしろ今日のお菓子は生クリームたっぷりのシュークリームだ。


 我慢できるはずがなかった。


「ふぁふん、ふんふょうふぁふぉふぉもふふぉ」

「ちょっ、何勝手に食べてんのよ!」


 答えろというから答えたのにこの仕打ち、まぁ、悪いのは俺か。でもジアスで食べる初めての生クリームだ。途中で止められない。その姿を見て諦めたのか、サクラはお茶も並べだした。


「俺は、順調だと思っている」


 やっとシュークリーム飲み込んで、お茶を一口して落ち着いてから口から出た言葉がこれだった。


 順調か? と聞かれても分からない。比較対象がないので。でも初めの頃よりは出来るようになってはいる。

 真剣での段取り稽古でも、武器が刺さる回数はかなり減った。痛いけど。

 蹴りで地面にのめり込む前に受けられるようになってきた。やっぱり痛いけど。

 骨折も内臓破裂も自分で治せるようになってきた。死ぬほど痛いけど。


 鍛冶も小太刀ぐらいなら、まあまあだ、と褒めてもらえるようになった。自由市では見たことないぐらい高品質だけど。

 風を起こす理具ぐらいなら作れるようになった。クリサンセさんの作ったヤツより5倍は理力効率の高い品物だけど。


 ついでに言うと、アホみたいに理力量も増えた。おかげで修行空間にいれる時間が長くなったという弊害もあるが。

 出来るようになったことを上げていく俺を、じっと見ていたサクラが不機嫌そうに付け加えた。


「時空魔法も色々使えるようになったやろ。私が教えてあげたん、忘れんといてや」


 確かに使える時空理術も増えていた。情報空間に転移だけだったのが、収納空間も使えるようになっていた。


「そうだったね。ごめん……じゃないな、ありがとう、だな」


 いろんなことができるようになっていた。

 教えてくれた方々には感謝している。辛くて逃げだしたくなる時も偶に、いやもっとか、あるけど。


 もちろん感謝したい人の中にサクラも入っている。口は悪いし、教え方は感覚的だし、最初は面倒くさがられているのかと思ったけど違った。


 色々気を使われている、このお菓子だってそうだ。疲れて修行空間から出てきたら必ずと言っていいほど持ってきてくれている。煮詰まった時に話し相手になってくれているのもそうだ。

 だからこそ、礼を言いたくなった。


「サクラのおかげで助かっているよ。本当にありがとう」


 教えの後、他の真龍達に告げる、ありがとうございました、とは違う友達としての、ありがとう! だ。


「な、な、何よ。突然に。う、うちはただ、自分のために……うー、ごにょごにょごにょ礼を言いたいんはこっちやのにもー、調子狂うわ」


 言葉と共に頭も下げる俺にサクラは、最初は慌て声で、途中は聞こえない声で、そして最後は自棄になった声で答えた。

 俺が顔を上げると真っ赤になってそっぽを向くサクラ。


 そんなサクラは俺の目に、何故かとても愛おしく映った。


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