第11話 “猫の宝”探しが終わって
ご主人の安全運転の車は伊賀コリンドールをひた走り、家に着いたのは夜8時を過ぎていた。部屋に入ると、ウッドデッキから仙太郎と嫁のしをりの鳴き声がする。ご主人は慌ててご飯をあげはじめた。
「見つけられたか」
仙太郎はカリカリを食べながらそう言った。
「ああ、小さな赤い首輪だったよ。少し、意外だった」
「いいものだ。“猫忍”の忠義さを示す宝だな」
俺は首輪を持っては帰らなかった。千方の猫も、風穴の中で千方を守り続けたいだろうと思ったからだ。そばにほつれた糸があったので、1本だけいただいた。ご主人の目を盗んで網戸を開けると、その糸を仙太郎に渡した。
「神洞子のおっちゃんにあげてくれよ。おっちゃんが一番探していたんだろう?」
「まあ、そうだな。あの方は年を召されてから家猫になったから、人との縁を信じたいのさ」
俺は、気になっていたことを仙太郎に尋ねた。
「これって、本当に探していた“猫の宝”なのか?」
仙太郎は不思議そうな顔をした。
「いや、割とすんなりと見つけられたというか、元締めが各地の猫忍に伝えてくれていたから、あんまりスムーズで、本当にこの宝でいいのかなって思ったのさ」
「あんたたち、ご主人がいたからよ」
サビ猫のしをりが割って入ってきた。
「あんたたちだけで見つけられたわけじゃないでしょう? ご主人に感謝なさいよ。誰もが千方窟に行ってくれるわけじゃないんだから」
そうか。俺たちには猫忍の技にかかりやすいご主人がいたことが、ラッキーだったのか。
俺はご主人にそっと頭をこすりつけた。
「お? なんだ、サスケは甘えっ子だなぁ」
ご主人は、本当に猫忍の技にかかりやすい。
*****
それから数日。猫忍の修行も集会もなく、俺たちは平和な家猫生活を楽しんでいた。平和すぎて、ハナちゃんとイヅミの仲が悪化。顔を見合わせてはウーウーと喧嘩をしている。俺はそれを横目に見ながら、今日も2階の窓辺でうつらうつらしている。ふと目を覚ますと、目の前にそいつがいた。
「お迎えは、もう少し後の方がいいかな?」
俺は驚く間もなく咄嗟に頷いた。そうか、と小さなつぶやきが聞こえ、ぱっと突然辺りが明るくなると、もうそいつの姿はなかった。
トトトトとハナちゃんが2階に上がってきて、その後を追いかけてくるイヅミに唸っている。
「ハナちゃん・・・ いま・・・」
言いかけて、やめた。イヅミがじっとこちらをにらんでいる。俺の夢なんだろう、きっと。さあ、ご主人たちが帰ってくるまで、もう一眠りしよう。
(終わり)
猫忍忍法帖「チカタの猫」 上月ぺるり。 @Kurof_Perry
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