第6話 もう一匹の猫忍、加わる。

「猫忍」の思惑はさておき、ご主人はすっかり「忍者」にはまってくれた。


「この子たちが夢の中で忍者のことばかり尋ねるから、すっかり僕は忍者三昧だよ」

 と笑っているけれど、それは猫忍の術。ご主人は知らぬ間に、忍者まみれになっているのだ。


「千方窟」に行く準備を進めていると、仙太郎がウッドデッキにやってきた。…嫁と子どもを連れて。


 仙太郎の嫁は、ある日突然現れた。さび柄で警戒心も強くぎゃーぎゃーと泣き喚くので、最初はご主人たちも気持ち悪がっていた。でも、仙太郎がまるで「よろしく」とでも言うように一緒に来るようになってからは、少し愛想も良くなり、いつまでもウッドデッキにいるのでご主人たちも結局「かわいい」という結論に達し、仙太郎同様、かわいがるようになった。


 それからしばらくして、嫁が来ない日が続いた。そして、次には仙太郎と交互に現れるようになり、ある日、小さな影がその後についてくるようになった。ついにその小さな影もウッドデッキに上ると、仙太郎と嫁、息子と娘の4人家族でぺこりと挨拶をした。…そのときのご主人たちの慌てようと言ったら… それから仙太郎は一家で何度か来訪している。…ご主人たちは、来てはくつろいでいく家族に、かわいいと思いながらも戸惑っているようだった。そして、今日もまた一家で現れた。


「今日来たのはほかでもない。うちの娘も猫の宝探しに加わらせようかと思ってな。気が強いんで、宝探しには向いていると思うんだ」


「そうは言ってもご主人が…」


「昨日、夢の中で説得しておいたよ」


 いつのまにか、仙太郎はご主人に猫忍の技をかけていたらしい。それにつけても、技にかかりやすいご主人だ。

 そうして、仙太郎の娘・イヅミがうちの家族に加わった。


 …猫の運命とはなんだろう。自由に外にいるのが幸せなのか。不安も危険もない家猫になるのが幸せなのか。俺には、その答えはわからない。でも、日々生きるということは、そんなに様々な出来事を秤にかけながら生きるものなのだろうか。忍者の掟にある「余分なことを考えない」。人間を見ていると、「考える」というのが罪なのではないかと思う時が、たまにある。…猫忍になり、ご主人の夢にお邪魔することが多くなると、余計にそんなことを思う。


 外暮らしから家暮らしとなったイヅミは、生まれ持っての「猫忍」だった。俊敏さは元より「遁術」に長けていて、家に来た初日は、どこにいるのかご主人たちは見つけられなかった。そして、家の生活にイヅミも慣れ(ご主人たちには慣れない)、ご主人が大型連休を取れるゴールデンウィークがやってきた。


*****

 そして、今日、ご主人たちの世界はゲンゴウが変わった。ウッドデッキにいた仙太郎は、雨が止むとともにまたどこかへ消えてしまった。少し日が差してきた。俺は窓辺で日を浴びながら、大きく体を反らして伸びをした。明日は晴れるかな。

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