第7話 千方窟に向かうも、寄り道だらけ。

 今年のゴールデンウィークは、改元と重なったこともあり、最大10連休。ヘイセイの最終日とレイワの初日は雨になったものの、次の日からは晴。絶好の行楽日和となり、朝早くからご主人夫婦は車に乗って出かけて行った。俺たちは留守番。でも、ご主人の車の中には、端切れの猫人形が3体乗っている。俺らの意識も、ご主人たちと一緒に「千方窟」を目指す。


 ご主人たちはいくつかのルートを考えていたようだが、結局、伊賀街道から伊賀上野に出て、そこから国道422号線を下っていく道を取ることにしたようだ。


「川をさかのぼる道、一度行ってみたかったんだ」


 途中途中で気になるスポットにも寄る、観光の旅を考えているらしい。猫忍の気持ちも知らず、のんきなもんだ。でも、忍者ゆかりのスポットに立ち寄れば“猫の宝”についての情報も得られるかもしれない。抜け目なく情報収集をせねば。すっかり猫忍気質になった俺の横で、ハナちゃんはスースーと寝息を立てている。イヅミは、何を考えているのかじっと窓の外の景色を見ている。


  国道163号線を東へ進む。狐川沿い、細い道だけれど気持ちのいい道だ。最近「ボルダリング」という岩登りで有名だという笠置を越え、京都府唯一の村・南山城村を抜け… るのかと思ったら、さっそく、道の駅「お茶の京都 南山城村」に寄るご主人たち。なんでも、ここの抹茶ソフトクリームが濃厚で大好きらしい。新茶の季節。まばゆいお茶の緑が、どこまでも続いている。


 伊賀上野に到着し、進路は南へ。…のはずが、またもルートが違う。そのまま東進して、大きな神社の駐車場に車を停めた。伊賀一之宮の「敢国神社」だ。三神を祀っていて、主神が大彦命。崇神天皇のときに「四道将軍」の一人として活躍した方で、最後は一族とともに伊賀の国に住んだそうだ。いかにも強そうなこの神様が伊賀国の氏神。阿拝(あえ)という土地に住み、その地名を姓としたことから、「あえ・あべ」姓の祖神ともされている。


 当然、忍者たちからも尊崇されてきた神社だ。平成7年(1995)に服部一族に伝わる奇祭「黒党まつり」を復興していて、ご主人たちも一度は見に行きたいと折に触れてはつぶやいている。この神社に立ち寄ったのは、どうやら「忍者のルーツをたどるのに、まずは神様にご挨拶を」と考えたらしい。


 ご主人たちがお詣りをしている間に、神社に住む猫忍が声を掛けてきた。


「よう、“猫の宝”を探しに行くらしいじゃないか。お前のとこの頭領に聞いたぜ。家猫なのに感心なことだな」


 どうも猫忍は上から目線の者が多い。どうやら、頭領から話が回っていれば、猫忍たちも話しかけてくれるようだ。


「ここは、伊賀に住む人間を守る神様を祀っている。伊賀国は広い。千方窟は伊賀の国の南の端だから、ここからはまだずいぶんある。気を付けて行けよ」


「“猫の宝”のことは、何か知らないのか?」


「伝説だからな。あるかないかもわからない。オレにとっちゃ、探す必要のないものさ。無駄な興味は、命を縮める。余分なことは考えるな、さ」


「ずいぶんドライだね」


「伊賀の性質なのかな。仕事でもなけりゃ、頼まれたわけでもない。なら、探さない。オレはここの仕事で忙しいのさ」


 というと、観光客らしき人間のそばへと飛び跳ねていった。観光客に道案内をするのを仕事にしているようだ。


「いつもじゃない。気が向いた時だけさ。そう、頼まれたんだ」


 振り返ってそう告げると、行ってしまった。誰に、とは言わなかったから、お詣りをする誰かに頼まれたのだろうか。現代の猫忍の仕事は、もっぱら道案内というから、立派に役目を果たしているんだろう。…じゃあ、家猫の猫忍である俺の役目は、なんだろう? いかん、いかん。余分なことは考えない。さあ、千方窟に出発だ!


 ご主人とともに車に乗り込む。が、ご主人の寄り道はこれでは終わらなかった。

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