第6話:叛乱

「今の言葉、確かに聞きましたよ、城代。

 それに、何故貴男がここにいるのですか。

 ここは公爵閣下か公爵代理しか入ってはいけない部屋です。

 貴男はいつから公爵閣下から代理に任命されたのですか。

 執事の私はそのような任命証にサインした覚えはありません」


 話し方は穏やかだが、込められた怒りと気迫にはとてつもない圧がある。

 ずっとマンツーマンで体術を教わっていた俺が恐怖を感じるほどだ。

 それは城代と呼ばれた奴も同じのようで、三歩も後ずさっている。

 それだけでなく、離れて見ていて分かるくらいガタガタと震えている。

 このままその場に崩れ落ちるかと思われるほどだ。


「やかましいは、公爵閣下を惑わす君側の奸が。

 皆の者、公爵家のために奸臣を討ち取るのだ」


 城代と言われた奴は震えたままだが、別の男がわめきだした。

 服装から見てそれなりの身分の人間のようだが、誰だろう。


「陪臣の分際で公爵家の事に口出しするとは、僭越すぎるぞ、下郎!」


 セバスチャンが珍しく厳しい言葉を口にした。


「貴男方は公爵家に仕える直臣の騎士ではありませんか。

 城代に任じられてるとはいえ、同僚の家臣に命じられて腹が立たないのですか。

 同僚の家臣に媚を売って恥ずかしくはないのですか。

 なにより、公爵家のご嫡男に剣を向けるなど、叛乱の加わってと断罪されますぞ」


 セバスチャンが他の騎士たちに厳しい叱責を与えた。

 よくこれほどの内容の口上を一瞬で考えつくものだ。

 もしかして、この状況もセバスチャンの予測通りなのか。

 セバスチャンならそれくらいやっていそうで怖いな。

 セバスチャンを目をかいくぐって何かしようなんて、絶対に考えてはいけないな。


 それにしても、セバスチャンがこれほど怖いとは思っていなかったのだろうな。

 城代と呼ばれていた男が腰を抜かして床に座りこんでいる。

 この城に詰めている騎士たちは、俺と城代の家臣に視線を何度も彷徨わせている。

 こいつら、公爵家の家臣のくせに父上に忠誠を持っていないな。

 セバスチャンが断罪しようとしているのは当然だろう。

 それにしても、あれほど偉そうにセバスチャンを罵っていた男まで固まっている。


「こ、こんなところにご嫡男様が来られるわけがない。

 執事がご嫡男様の偽物を仕立てたのだ。

 このままでは公爵家が執事に乗っ取られてしまうぞ。

 忠義の騎士たちよ、執事を殺して偽物を取り押さえるのだ」


 さっきから、ご嫡男様、ご嫡男様と言いやがって、腹が立つ。

 俺をイーライという個人ではなく、公爵家の嫡男としてしか見ていない。

 セバスチャンは、ちゃんと俺の事を一人の人間として扱ってくれるぞ。


「セバスチャン、こういう不忠者はぶちのめしていいのだな」


「はい、イーライ様、心ゆくまでぶちのめしていただいて結構でございます。

 言う必要はないと思いますが、殺さないでください。

 裏にいる者や仲間の名前を白状して頂かねばなりません。

 ここにいる者たちの家族はもちろん、親戚縁者にも責任を取らせますので」


「何をしている、やれ、早くやるのだ。

 やらねば俺たちが処断されるのだぞ、今更忠義ズラしても遅いのだぞ」


 さて、骨を砕くのは嫌だから、全員を眠らせて終わりにしよう。

 俺は母や母の愛人に何度も骨を折られた事がある。

 それはとても痛かったが、恨んで誰かに同じ苦痛を当てたいとは思わない。

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