第5話:魔物の大繁殖
セバスチャンのスパルタ教育は分かっていたけれど、これは酷い。
ご褒美だと言いながら、とんでもない難題を押しつけてくる。
普通なら嫌いになってしまう所なのだが、最後の最後にはご褒美を忘れない。
俺を父上や母上と二人きりで会わせてくれるのだ。
政務で忙しい父上や妹達の世話で忙しい母上と会える時間を作ってくれる。
そんな、俺が本当に欲しいモノを、外した事のない養育係だ。
本当に陰から俺の心身を支えてくれる養育係。
そんなセバスチャンがやれと言うのだから、どうしても必要な事なのだろう。
どうせやらなければいけないのなら、できるだけ早くやり遂げる。
できが悪いと再度やらされれるのは嫌だし、完璧を求め過ぎて時間をかけるだけ無駄だから、セバスチャンが要求している少し上の成果を素早く達成する。
俺には難題に感じられるから、それに見合う今回の褒美が本当に楽しみだ。
「イーライ様、今回はわたくしもご一緒させていただきます。
ですから大魔境までは転移魔術で移動してください」
セバスチャンがそう言うと、護衛の騎士たちが顔色を悪くしている。
俺がわずか五歳で、ほとんど使い手のいない転移魔術を使う事に驚いているのなら、その程度の事を驚いてもらっては困る。
身体の中に無限魔力ポケットを作れる俺なのだ。
空間魔術など簡単に使いこなせるから、亜空間を作り出す事も転移も簡単だ。
ああ、護衛騎士に俺が転移魔術を使える事を知らせる目的もあったのか。
セバスチャンは今回の件にどれだけ意味を持たせているのだ。
セバスチャンはいつも穏やかな表情を浮かべているが、実際には策士だから、俺と公爵家の利益になるなら、なんだってやる漢だからな。
「貴男方は急いで大魔境に来るか、ここに残るか選択してください」
これもかよ、護衛騎士の選抜試験も兼ねているのかよ。
父上とセバスチャンの言動から、家臣内に問題がある事は分かっていた。
王家派と公爵派に分かれているだけでなく、先々代の頃に権力を握っていた連中が、幼い俺を擁立して復権を企んでいるという。
先々代派が王家派と手を組んで、俺の護衛騎士に手の者を送り込んでいるとセバスチャンから忠告を受けていたが、今日目障りな連中の排除に動くのだな。
「ではイーライ様、大魔境まで連れて行っていただけますか」
セバスチャンにそう言われて、俺は転移魔術を展開した。
行った事にない、鮮明な記憶のない場所には転移できないが、大魔境の近くならどこでもいいと言うのなら、大魔境監視のための城に行けばいい。
あの城なら、非常時に備えての巡視という名目で行った事がある。
父上が座城する時のための特別室ならよく覚えている。
今考えれば、セバスチャンはこの時のために連れて行ってくれたのだろうな。
「ご城代、魔獣が大繁殖しております、早々に討伐しなければ領内に大被害が及んでしまいます、今直ぐ討伐命令を出してください」
「黙れ、そんな必要はない、公爵領が混乱するのなら好機だ。
魔獣を領内に誘導して、公爵を追い詰めるぞ」
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