第7話:魔物の討伐

 俺が教師やセバスチャンから教わった魔術は、実戦で大いに役に立った。

 セバスチャンからは、とても分かりやすい説明をしてもらえる。

 セバスチャンの養母が教えてくれたという魔術の内容を教科書にしてくれている。

 魔術師の教育係からも教えてもらえるが、教え方はセバスチャンの方が上手い。

 だがセバスチャンには魔力がないので、お手本に魔術を使う事ができない。

 魔術師の教育係の役割は、俺に実際の魔術を見せる事だった。


 そうやって覚えた魔術の中には、教育係、護衛騎士、侍女、従僕を相手に試してみたモノもあるが、殺傷力のある魔術は家臣相手には試せない。

 公爵家の魔術鍛錬場や小さな魔境で試すしかない魔術も多い。

 中には転移魔術のように家臣にも秘匿している魔術もある。

 いや、秘匿している魔術の方がはるかに多い状態だ。

 今日こうやって広範囲の睡眠魔術を実戦で試せたのをうれしく思っている。


「セバスチャン、こいつらをどうするのだ」


「本当なら直ぐにでもダグラス城に連行するべきなのですが、少々気になる事がございますので、このまま眠らせておきましょう。

 二日ほど眠り続けるように睡眠魔術を重ね掛けしてください、イーライ様」


「そんなに眠ってしまって死んだりしないだろうな」


「ご安心ください、イーライ様。

 叛乱を企てた腐れ外道とは言え、この者たちも騎士でございます。

 二日飲まず食わずでも死んだりはいたしません、大丈夫でございます。

 それよりも心配なのは、魔物の大繁殖でございます。

 もし魔物が狂っていて、普段は出て来ない魔境から暴れ出るようなことになりますと、領民が魔物に喰われてしまします」


 確かにセバスチャンの言う通りだ。

 領民が魔物に喰われてしまうような大惨事は回避しなければいけない。


「先ほど少々気になると申し上げたのは、この者が、魔物が大魔境から出てしまうのを確信しているような言葉を口にしていた事でございます、イーライ様」


 そうだな、セバスチャンも教育係も、魔物は魔境から出ないと言っていた。


「もしこの者が魔物を魔境から出す方法を知っているとしたら、大問題です」


 セバスチャンが話しながら城代を睨みつけている。

 秘密を白状させるためなら激しい拷問を加えるのだろうな。

 俺の前では絶対にやらないけど、セバスチャンにはそういう怖い所もあるからな。


「まずはこの男だけをダグラス城に連れて行き、その足で大魔境に行きましょう」


 さっきと話しが違っているように聞こえるが、勘違いなのだろうか。

 それとも、話しているうちに別の考えになったのだろうか。

 まあ、そんな事はどうでもいいから、さっさと城代と言う奴を父上の所に連行しよう、そうすれば後は父上が全て上手くやってくださる。


 ★★★★★★


「これは、これは、信じられないくらい魔物が増えておりますね。

 これだけ魔物がいるのなら、イーライ様の魔術訓練相手に困る事はございません。

 手加減せずに思いっきり攻撃魔術を放ってください。

 素材の状態や買取価格など気になされなくて結構です。

 今回はイーライ様の訓練が最優先ですから。

 お分かりとは思いますが、事前に狩人や冒険者がいない事を確認してください」


 城代を父上に預けた俺とセバスチャンは急いで大魔境にやってきた。

 大魔境には魔術で確認する必要もないくらい魔物が溢れていた。

 魔境と人里の境界線には、人里の方に行こうとしては跳ね返される魔物が鈴生りになっていて、気持ち悪いくらいだった。

 こんな気持ち悪い光景はいつまでも見ていたくないし、広範囲魔術を実戦練習できるのもうれしいから、さっさと狩ってしまおう。


 最初に魔境で狩りを命じられた時は、俺に生き物が殺せるか不安だった。

 だが、やってみると以外に何の痛みも感じなかった。

 俺が暴力を振るうのが嫌なのは、人間だけだった。

 とっとと習い覚えた魔術でこの気持ち悪い状態を解消する。

 できるだけ短くした呪文でです。


(超広範囲小火弾)

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