第7話

「こんな電話かけてどうしたの?」

呆気にとられた。事の始終を話し今どこにいるか尋ねた。

「わたし?公園のベンチよ。ちょっと暑くて日陰で涼んでたの」


すぐに母の安全を確かめた。

母を疑った自分自身を恥じると同時に、母を失わずに済むことに本当にほっとした。


そこで拓斗から電話がかかってきた。

「よう」

彼のぶっきらぼうな声に不安になる。

「どうした?見つかったか」

「あぁ、目の前にいるよ」

一瞬つばを飲み込んだ。何を言っているんだろう拓斗は。まさか。


「お前なんかより、お前の父親なんかよりは俺のほうが彩佳を愛してる」


脳天をぶち抜かれた気がした。

彩佳の悲鳴が聞こえた。


母を疑っていた自分を殴りたい。

拓斗に気づけなかった自分を殴りたい。

拓斗は僕たちの近くにいて、彩佳のことが好きだった。確かにそんな気がしていた。


いつだって、命ははかない。


「拓斗、今どこだ」

叫ぶような声で、威圧する声で拓斗に尋ねた。

「人のいない場所だ」

「神社の山奥か」

拓斗は鼻で嘲笑してそのとおりだと言った。


「もう遅いよ」

彩佳の悲鳴はもう聞こえることはなかった。

肉を殴っているような鈍い音が受話器の向こうから聞こえる。

「やめろ、」

音が止まることはない。

「やめろ、、やめろ!」

拓斗の声がする。

「彼女は俺のものだ」

「ふざけるな!」

「自分の手でできた」

受話器をたたき捨て、家を出た。

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