第5話
「来ないでって言ってるでしょ!」
また彩佳が叫んだ。彩佳が叫ぶのははじめて聞いた。
「どうしたんだよ一体!」
「言ってもわかってもらえない」
拓斗の声に対して崖下の海を見て彩佳がボソッと口ずさむ。
「わかってる」
僕は唇をかみしめて言った。
「彩佳が何をして、なぜそこにいるのかも」
彩佳は少し戸惑った顔をしてすぐに顔をしかめて言った。
「じゃあもう説明はいらないのね。邪魔しないでよ」
「そんなことをしてほしいとはお父さんは思っていないと思う」
彩佳は突き動かされたように固まった。
「そうかな」
「お父さんが自殺したからって彩佳が同じようにする必要はないと思う」
「達哉にも申し訳ないことしたんだよ」
「わかってる」
2人の問答を拓斗はもう少し驚くかと思ったが冷静にしていた。
「お父さんのために生きてほしい」
僕は心の底からそう言った。
その時だった。拓斗が彩佳の腕を掴んだ。じりじり距離をつめていたのだろう。
彩佳は抵抗したが野球部の腕力に勝てるはずもなく灯台から降ろされた。
そのあとは3人で泣いた。高校生にはあまりにショッキングな出来事で心の整理が追い付かなかった。
家に帰ると母がどこにいたのと怒鳴ってきた。携帯を見ると母からの着信が並んでいた。
適当な嘘をつきとおしその場はなんとか退けた。
これで終わらない。まだ何かある。
父の自殺、彩佳の自殺未遂。
そんな胸騒ぎとともに床についた。
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