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「それよりも、最近はどうだ」

「別に、大したことはしてないよ。毎日お祈りして、後は家の手伝いかな」

 彼女の日々は、傍から見ればひどく単調なものだ。何をしていると聞かれたところで、特に答えることもない。

「……そうか。私のせいだな」

「気にしてないって。ここ、結構いいところだし。海も近いし、ご飯も美味しい」

 「イズールト」の名を受け継ぐ者は、島の外の世界も知らずに、円卓の騎士・トリスタンを迎え続ける。……かつて「リオネス国」と呼ばれたこの地に残る、古くからの言い伝えだ。

「それにさ、私たちがいなくなったら、トリスタンが一人になっちゃうじゃない。あなたの姿は、『イズールト』にしか見えないんだから」

「……優しいな、イズールト」

「別に、普通だよ」

 彼女はしばらく花を編んでいたが、やがて花冠が完成すると、それをトリスタンの頭の上に載せた。サイズが合っているのを確認すると、今度は自分の分を編み始める。

「この島って、トリスタンの故郷なんでしょ? やっぱり、今と昔じゃ全然違う?」

「変わったものもあるが……。この島風と、イズールトの笑顔は、昔から変わらないな」

「ふふっ、何それ」

 「イズールト」の顔は、代が変わっても全く同じだ。今のイズールトは知る余地もないが、トリスタンにはそれがよく分かっていた。

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