còig
ワンピースの裾を揺らしながら、イズールトは丘の斜面を歩く。しばらくすると、視界が一気に開け、海が一望できる場所に到着した。
「……いた」
――彼女の言葉の先には、竪琴を奏でる男性の姿があった。重厚な鎧に、装飾の美しい剣。白く長い髪は、風とともに空を泳いでいる。甚だ現実離れした男だが、彼はいつもこの格好だった。
「トリスタン」
イズールトが声を掛けると、彼はゆっくりと振り返った。儚げな赤い瞳が、夕日の赤と重なっていく。
「今日は何の曲?」
「昔、アイルランドで流行っていた曲だ」
「ふーん」
この島のことしか知らない彼女には、アイルランドの情景はいまいち分からない。多分、寒い国なのだろう。そう思いながら、いつも通り彼の横に腰を下ろした。
「イズールト。しばらく見ない内に、一段と美しくなったな」
「大げさだって。しばらくって言ったって、一年ぐらいじゃない」
イズールトはそこら辺の花々を摘み、大きな花冠を編み始めた。トリスタンは静かな動作で、彼女の手つきを眺めている。
「トリスタンは、相変わらずだね。ずっと前から、その姿なんでしょ?」
「まぁ……、そうだな。私はずっと、この姿だ」
少し困ったような顔をして、イズールトに笑い掛けるトリスタン。彼が見えるということも、「イズールト」に受け継がれる不思議な力なのだ。名高い伝説、円卓の騎士。彼はその一人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。