trì

 教会の近くには、小さな公園がある。イズールトが通り掛かるのはいつも夕方だが、子どもたちは日が沈むのも構わず、今日も元気に遊んでいた。

「そう言えば、あのブランコに腰掛けて、一緒に話したこともあったな……」

 誰ともなく、ぼそっとつぶやく。空気に溶けるような、小さな声で。

「……もうそろそろ、聞こえるかな」

 ――そう言って目を細めると、かすかな旋律が風とともに流れてきた。繊細な、竪琴の音色。この先にある、海の見える丘から聞こえてくる。

 イズールトは迷わず、その音のする方向へと歩き出した。すれ違う人々は、竪琴の音色など、全く気にも留めない。それもそうだ。この音は、イズールトにしか聞こえないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る