見かけと真実4
周りの人達を騙していることには少々後ろめたさはあるものの、だからといって真実を言っても単に不安を煽るだけになるし、みんながみんな信じてくれるとも思えないので、申し訳ないとは思うものの結果オーライということで許して欲しい。
信じやすい話の方が、たとえ嘘であってもみんなが幸せになることもある……きっと。
しかし毎日毎日、彼の不慮の事故を警戒して常に一緒にいると、なんだかんだと仲良くはなるわね。
それに彼は普段からとても紳士的で、常識的で、そして気配りを忘れない。非常になんというか、模範的な夫。しかも顔が大変好み。だからその顔ににっこりと笑いかけられた日には、うっかり自然に顔がにやけてしまう。
たとえ真実の姿がチャラ男だとしても、なかなか愛嬌のあるチャラ男だと思うようになってきてしまった今日この頃。
つまりは非常に理想的な夫。
なんでこんな物件が適齢期なのにまだ売れ残っていたんだろうと思ったりもしたけれど、まあ王族の務めとか、ファーグロウに聖女が出現した時のためとか、いろいろ事情があったのだろう。
だけど彼に「聖女」と認定されたお陰ですることになったこの結婚で、こんなに良い生活をしてもいいのかしらん、そう思う日もあるくらい贅沢な日々。
考えてみればこの世界に来た当初は、こういう生活に憧れたわねえ……。
良い服を着て、美味しいご飯が食べられて、イケメンに大切にされる日々。
はい、とても快適です。こんなに気を遣う生活だとは夢にも思わなかったけれど。
でもたとえ規則が多くて少々不自由な生活でも、常に使用人のたくさんの目があろうとも、壊したら卒倒してしまいそうな高級品が無造作にあちこちにあろうとも、それでも不穏な未来を知らなければ非常に魅力的といえる。
だけれど中枢も中枢の人だけに共有された「レクトール将軍突然死の予言」。
はじめは誰もが信じられないという顔をしたが、当の本人がオリグロウの『先読みの聖女』からも言われた事実を重く受け止めて信じたことで、出来るだけの対応をすることが決まっていた。
しかし今までで彼が瀕死になったことなんて無かったから、やはりこれから新たな何かが起こるのだろうと思われる。
まあちょっと今までは、
「なんで勝手に結婚なんて! ひどいわ!」と叫びながら女性に後ろから刺されそうになったり、
大きな植木鉢や石が突然上から落ちてきたり、
突然馬車が壊れて川に投げ出されたり、
砦の手すりが突然壊れて落ちかけたり、
そんなことはあったけれど、でもなんとか無事だったし。
そういえば他にも細々とした危険もあったような気がするけれど、その都度本人と護衛と影が対処してちゃんと命拾いはしているし、多少の怪我も私がその場で治すから問題は――
ない……よね?
……ねえ、本当に大丈夫? これ。
さすがにちょっとおかしくないか?
「なんでこんなに事故が多いんですか。まさか誰かに恨まれていたりしませんよね?」
あるとき私は訓練の最中に誰かの手からすっぽ抜けたらしい「真剣」が、ちょうどその先に居た将軍の顔をかすって出来た傷を治しながらため息をついた。
護衛がとっさに対処したからいいものの、下手をするともちろん死ぬやつ。
彼の後ろを歩いていた私には飛んできたその剣も、それをとっさに弾いた護衛の動きもほとんど見えなかった。なんて怖い。
「いやあ、敵が多くてね」
ってあなたそれ、笑っている場合ではないでしょうに。
影や他の護衛の存在がなかったら、そろそろ何度か死んでいるでしょ、これ。
護衛が忙しいって、どうなの!?
「ここの人たちは全員信頼できるのではなかったんですか。一体何が敵で何人いて何処にいるんですか?」
「うーん、この場合主な敵は多分一人なんだけれど、なにしろ立場がねえ。まあ、本気で暗殺しようというよりは、警告というかちょっかいというか、ついでに運良く死んでくれたら万々歳、くらいの感覚じゃないかな」
って、ちょっとまって? それ苦笑いしている場合なの?
なんなのその感覚。なんて物騒なんだ。
「誰ですか、そんな気軽にこんな物騒なことをするのは」
「うーん、義母? 僕は側室腹で、どうも前から王妃様に警戒されているんだよね。でも彼女も自分の息子の王太子を守りたいだけだから、僕が王宮を出て戦場にでも居れば安心するかと思っていたんだけど、どうやら聖女を妻にしたのが気に入らなかったらしい。また最近になって細かな嫌がらせが増えたな」
いやこれ、嫌がらせの範疇なの?
って、いやいやいや、それよりも。
「ええ、つまり、私のせいですか?」
まさか自分が関係していたとは。
「いや君のせいではなくて。君と結婚した僕が原因だ。あ、もちろん僕は聖女だからという理由だけで君と結婚したわけではないよ? さすがの僕もそんなことはしないから」
「いやそのキラキラつきでウインクしてくるところがむしろ嘘くさ……あ、でもそういうアピールは嬉しいです。なにしろどこに目や耳があるかもわかりませんからね。ところであなた、五番目なんでしょう? 別に誰と結婚しようがあまり関係ないのでは?」
そういえば、あんまりファーグロウ王家のお家事情は勉強していなかったことに私はここで気がついた。
まあ、かりそめの妻だからね。きっとファーグロウの王族とは関わらないでこの生活は終わるだろうと思っているから、正直あまり深い事情に興味は無かったのだ。
「うーん、でも一応『聖女』が味方につくと、国民からは人気が出るんだよね」
「ああ、だからあなたの周りの人たちが喜んでいたんですね。そして王妃様はそれが気に入らなかったと?」
「ああ、うん、それでちょっと神経質になっているのかも。実は今までの歴史では、ファーグロウの王家は基本「鑑定」スキルを持っている人間が王になることが多かったんだ。だけど唯一の王妃様の息子の王太子には「鑑定」スキルが出なかった。というより王家の中で「鑑定」を持っているのは僕だけなんだよね。だから昔は野心のある人たちが僕を担ぎ上げようとしたこともあって、それからずっと王妃様には警戒されているから。僕にはその気はないんだけど」
って。
なに、さらっと結構重いことを言っているんですかね?
なにそれ、てっきり王位継承権は五番目だと思っていたら、それ見方によってはもっと近くにいるのでは?
そりゃあ私が王妃だったら警戒するわ。だからといって消そうとまでは思わないけれど。
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