移動、いや護送? 2
馬車の中ではいくら三人一緒だとしても、残念ながらあまり私語なんて出来ません。
何故か信用がないらしく、見張りが一緒に乗っているからね。
なんでだろう?
レックが反抗的な態度だったからだろうか。
なので私たちはひたすら無言でガタピシと馬車に揺られるのみ。
なーんて思っていたけれど。
なんと実は私語し放題でした。
いや最初は私たち、大人しく黙っていたんですよ。でもレックがファーグロウの言葉でしゃべり始めたから判明したんだけれど、どうやらこの見張り、そしてどうやら護衛らしき人も、どちらもファーグロウの言葉がわからなかった。
私もよくよく視てみたけれど、どうやら演技ではないようだ。ただひたすら自分の理解できない言葉でしゃべられて、すごくイライラしているのがわかった。
レックがファーグロウの言葉で、
「この見張り、分かっているような顔をしているけれどわかってねえな。全然なんの反応もしない。こうして見てると間抜けな顔だな~」
とか言っていろいろ挑発した台詞を吐いているのに、目線を外した上に言い方がにこやか、かつ穏やかだからかこの見張りは悪口を言われているとは全く思っていないようだった。
そしてそれを聞いて吹き出す私とオースティン神父。
私はどうやら異世界転移の恩恵か、言葉は何でもわかるようだった。考えてみればこの世界に来た瞬間から何不自由無く話して聞いていたよね。
そしてオースティン神父もどうやらファーグロウの言葉に困ってはいないようだ。
そうと判れば三人で会話し放題だ。
ただし見張りが危機感を持ったのか会話を止めさせようといちいち注意してくるのが煩い。
もー私たちは罪人じゃあないのよ。
一応王子に「招かれている」立場じゃないのよ。え? 呼びつけられている? ま、まあどっちでもいいけれど、せめて自由にさせてよね!
と、いうことで、私はもうあの罪人として護送されていた私とは違うのよ~。
なにしろ経験を積んだからね!
そうして私はさくっと見張りを眠らせたのだった。
ねーむれー。
彼に向かってそう魔力を向けるだけだ。
日頃こき使われていたのか疲れていたらしい見張りは、いとも簡単にころりと眠ってくれたのだった。
もちろん起きてまた文句を言い出したら再度眠ってもらう。日に日に元気に健康になっていくのはなによりデスネ。きっと良いことをしているに違いない。うん。
そして最初は私の隣に座っていた見張りが舟を漕いで私にもたれかかって来たときには、レックが私と場所をかわってくれた。
あらやだ紳士……。
正直とても嬉しかったです。初めて彼の印象が上がった瞬間だった。
ただそれを「おお優しいのう」とか言ってにやにや見ているオースティン神父様? あなたがかわってくれてもいいんですよ?
まあそんなこんなで会話以外には何もすることが無い時間がたっぷりあったので、私は今の自分の置かれている状況をレックに説明することにしたのだった。
まあ雇用主だし、部下の事情もある程度は知っておいてほしいよね。それに何日も馬車の中で過ごしていたら、なんだかんだ言って態度は軽くても案外いい人なんだということはわかったし。
少なくとも私と神父様に何か失礼な言動をしたり嘘をついたりすることはなかったから。むしろいつも気を使ってくれて常に紳士で頼りがいがあったのは意外だった。イケメン胡散臭いと思っていて悪かったよ。
だからざっくりと。喚ばれて、冷たくあしらわれて、そして追放から暗殺まで。
「斬られたのか?」
「ええそりゃもうばっさりと」
そう言って私は首から反対側の脇腹へと手で線を示した。
「それが本当だったら即死だろうそれは」
「普通ならね? だからなんか脊髄反射で修復してた」
てへ。
「……聖女だと死なないのか。便利だな」
おい。
人が一人死にかけた話でその感想はどうなの。便利って。
あ、でもこの人軍人だったっけか。だったら人が死ぬところなんてたくさん見てきたのだろうか。
こんな涼やかな綺麗な顔の人が血なまぐさい戦場にいる場面を想像できないんだけれど。
でもそれを言ったらこんな印象的かつ目立つ容姿で極秘任務って、向いていないんじゃないの? 少なくとも彼を見た女性はそう簡単には彼の存在を忘れなさそうじゃない? 男だってなんだか目立つ男がいたなくらいは思いそう。
この人の上司って、どうしてこんな人選をしたんだろうね。よっぽど優秀なのかしらん。
「でもそんな事情なので、私は王宮にいる『先読みの聖女』に会ったらまずいのよ。国を挙げての追跡とか勘弁。だから行くなら二人で行ってほしいの。もしもバレたら私はファーグロウの将軍に会う前にその場で殺されてしまう。それだけは嫌。せっかくここまで頑張ってきたのに」
命は大事。とってもね。
「だから何でそんなに将軍に会いたいんだ。いいかげん理由を教えてくれないか。それに慣れない場所で別行動しているといざ逃げるときにはぐれるぞ」
「だからそれは言えないんだってば。どうせ信じないだろうしほいほい軽々しく言えるような事情じゃあないんだよ。こっちは命がかかっているの! 必死なの! あ、でもはぐれるのも困る」
「まあまあ、なんとかなるじゃろ。要は王宮で顔が見えなければいいんじゃろ? どうとでもなるよ~」
そんな密談? がはかどる馬車の中。
見張りがいる手前、大変にこやかに。口調は軽く。一見世間話をしているかのように計画を練る。
ほー、いいわね~でも殺すのはちょっとまって~。うふふ。そうね骨折くらいはいいんじゃない? 何本かいっとく?
ノリはピクニックではどんなお菓子が食べたいかしら? バナナもおやつに入りますか? そんな感じです。
そんな順調かつ思いのほか楽しい日々だったのだけど、ある時からとうとう見張りが眠らなくなってしまった。
それはそれは元気になってしまったらしく、数日に渡ってたっぷりと寝た見張りはそろそろ仕事を真面目にまっとうしようと頑張り始めてしまったのだ。元気な上に気を張られてしまうと軽く魔術をかけたくらいでもう眠くはならないらしい。
くっそう。便利だったんだけどな。でも強力にかけるとそれはそれで気付かれそうだし。
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