移動、いや護送? 3

 三人で密かに目配せをして相談する。

 どうする? 

 どうするかのう。

 よしまかせろ。


 最後にそんな顔をしたレックが、次の休憩で馬車を降りたときにいつもの見張りとは違う、馬車を警護していた男に話しかけた。

 とたんにキラキラとした光があたりを舞う。


「失礼、この前から思っていたのだが、あなたはどうも調子が悪いように見えて私たちはとても心配しているんだ。どうだろう、馬車の中の見張りの人と交代しては? 君は馬車に乗ったほうがきっと体が楽になると思う」

 にっこり。キラキラキラ~。

 なかなかな量のキラキラした光がレックと警護の男を包み込んだ。


 するとそう言われた警護の男は、今まではずっと憮然とした顔でこちらのことを不信感も露わにして見ていたというのに、突然驚いたように目を見張って言ったのだった。


「ああ、そうですね……そうかもしれません。ちょっと見張りの奴と相談します」


 うわ……すごいな、「魅了」っていうスキル。

 大の男がレックにぽーっとなっているよ。男が男を見つめて頬を染めるとか珍しい物を見た。うへえ。


 しかしそんな派手な力わざ、こんな公衆の面前でやっていいのか? と思ったので、


「ねえ……あのキラキラ目立ちすぎじゃないの? なんで誰も驚かないの?」

 と聞いてみたらば。


「あれはよっぽどの魔力がないと見えんよ。多分今あれが見えているのは、アニスとワシくらいなものじゃろうな」

 とのことでした。


 なるほど……ますます胡散臭いスキルだな……と、思ったのは内緒です。


 そして休憩が終わる頃、どうやら警護の男と見張りの男が言い争いをしているような声が聞こえたけれど、果たして。


「では今日から交代します」

 そう言って馬車に見張りとして乗り込んできたのは、先ほどレックに「魅了」された元警護の男だった。


「まあ、よろしくお願いします~。交代できて良かったですね!」

 もちろん私たちはにこやかにお迎えしたのだった。


 馬車の中でも新しい見張りの男はまだレックの「魅了」が残っているらしく、私の隣に陣取ると熱い目線でレックをチラチラと見ていたが、レックは素知らぬ顔でつれない態度を貫いていた。

 まあそうだよねえ。私も二人が見つめ合う図なんて見たくはない。


 そしてレックはこっちに「早く仕事しろ」とでも言いたげな視線を送ってきたのだった。

 わかってますよ~。


 もちろん馬車が走り出したらやることは一つ。


 ね~むれ~。

 こてん。


 おお効きがいいねえ。よっぽどお疲れだったんですね?

 そして。


「ちっ。こいつもアニスに寄りかかりやがって。君も男に寄りかかられて黙っているんじゃない。ほら替わろう」

 レックが紳士的に、また私と席をかわってくれたのだった。


 やだ素敵~。その得意げに気障なウインクを寄越したりしなければうっかり惚れちゃったかもしれないー。

 ……すみません嘘つきました。

 キリッとしていればさらさらな黒髪と涼やかな目元の超絶イケメンなのに、私は本当に、心から、残念です。


 でもさすが軍人さんというだけあって体格は良いから三人の中では一番男に寄りかかられても負担は少なそうだし、容赦なく押し返しているようなので助かります。さすがに私は押し返すのにも抵抗があったし、でもムサイ男と密着とかはちょっと嫌だったから。


 そして私たちはまた密談に戻ったのだった。


 私はなんだか楽しくなってきた。

 レックも頭の回転の速い話のわかる人だし、オースティン神父は経験豊富。ここ数日で私一人では出なさそうな策がいろいろ出てくる出てくる。なんだかいいチームワークが出来そうでちょっとわくわくさえしてしまう。

 うん、このメンバーだったら、たとえ敵の王宮からでもちゃんと脱出できそうだ。

 そんな気さえしてきたよ。


 そしてそんな密談の合間は見張りにはずっと眠っていただいているのだけれど、今度の見張りは時折いびきをかくので、その度にレックが見張りを小突くようになった。


「んがっ?」

 はいねーむれー。

 すやぁ。


 だんだんその連携も手慣れたものになってきたよ。

 無言かつ阿吽の呼吸によって繰り出される強制睡眠攻撃だ。


「なんならワシがちょっと動かないように縛っとこうか? さっき都合の良さそうな紐をたまたま手に入れてのう?」

「って、なんで懐に紐が入っているんですか。いつの間に。それ凶器になるやつじゃないか。あの見張りの目は節穴なんですか? でも縛って気付かれたら大騒ぎになるから駄目ですよ、わくわくするのもやめてください神父様」

「紐もいいが例のやつを調達しなければね。急がないと」

「ああそれももうあるぞ? さっき格安で譲ってもらったよ~。ふぉっふぉっふぉ」

「神父様さっすがー。しかし本当にいつの間に?」

「にゃーん」

『おなかすいたー』


 そんななかなか楽しい道中になったのだった。

 今度の男はよく寝る男で大変助かりました。





 そうこうしているうちに馬車は王都に入っていったのだった。

 ああとうとう来てしまったよ……。

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