移動、いや護送? 1

 しかし私が必死で最善の道を探っているというのに。

 そんな私の傍らで、呑気な顔をしている男が一人。


「へえやっぱりおもしろい展開だな。ちょっと一緒に着いていってみようか」


 はあ? 何を言ってるの? わかってる? あなたの国の戦争相手の中枢よ? あ、だから行くんですかそうですか。軍の極秘任務とやらが一体何かは知らないが、出来たら勝手にやってくれ。あ、でも一緒について行くって言ったかこの男?

 冗談はよしこさん。


「ちょっと私の命がかかっているんですけど? なにを呑気な事を言っているの? 私は行けないわよ」


 しかし彼はのほほんと言ったのだった。


「まあまあ。まずいと思ったらその時逃げれば良いさ。どうとでもなるよ。まかせて。でも王宮の使者なんて何を言うのか興味あるじゃないか。君一人くらいなら私がちゃんと守ってあげるから、ちょっとついて行ってみない? それに今、私が雇い主」


「あ、はい……」

 そうだった。そういえば報酬をもらう雇用関係だった。うっかり笑顔で了承しちゃっていたよ。


 それにまあ、この見慣れて来たとは言え超絶美しい顔できりりと「ちゃんと守ってやる」とか言われちゃって、ついうっかり嬉しかったのも否めない。

 えーちょっとこんなイケメンに守られてみたいー。

 女の子だもの。


 と、いうことで、私はロロを抱いたままレックの後ろに移動したのだった。

 彼がそう言うならもちろん最初から守ってもらう気まんまんだ。私は有言実行を望む。

 でもオースティン神父がちゃっかりその私の後ろに来たのはどういうことかな? あなた強いでしょうが。


 でもまあ最終秘密兵器を抱いて、自信家のイケメンと実は強い神父様に挟まれて。

 どうにかなる気がしてきたような。


 そしてそれを確認してから、サルタナ院長がおっかなびっくりドアを開いたのだった。




 結論から言うと、このレックという私の雇用主は頼もしかった。

 私の雇用主として、ちゃんと私だけの王宮への連行には断固反対してくれたのだ。


「私の部下を勝手に連れて行ってもらっては困る」


 そう言って断固矢面に立って交渉してくれる姿はなかなか頼りがいも威圧オーラもあって素敵でしたよ。

 でももともと頭の固いこの国の王宮の人間には効果はいまいちだったようだけれど。


「何を若造が偉そうに。口を慎め。ロワール殿下の要請を断ることは許されない。そこの治療師はすみやかに召集に応じるように。あくまで断るようなら拘束する」


 そう高らかに王宮の使者という人は宣言したのだった。


 まあこちらは身分なんぞ全くない庶民ですからねえ。

 しかしだからと言って相変わらず頭が固いというか強権的というか我が儘というか。もうちょっと丁寧な、上品な使者はいないのかこの国には。それとも辺境のぽっと出の治療師にはこれで十分だとでも?


「ぜひ来ていただきたい」

 くらい言えないのか全く。


 要は、最近話題の治療師を即刻王宮に寄越せと。そういうことでした。なんでだかはわかりません。

 しかしうーん、やはり噂は王都まで行っていたか。


 でもこの使者が来る前に隣国の人間と縁が結べたのはラッキーだった。そうでなければ今頃は急いでとんずらしてまた一から生活の基盤を整えなければならなくなって、大幅に時間をロスするところだった。もう秋も後半だというのに。


 そんなことを考えつつ成り行きを黙って見守っていたら、しばらくレックと使者がなんだかんだと言い争った挙げ句、最後は使者が面倒になったのか折れて、結果的にレックの思惑通りに私たち三人がひとまとめで王宮に連行されることになった。

 うーんレック交渉上手いな。そうなるかー。


 でも私は行きたくない……。


 一生懸命目で訴えたけれど、どうやら彼は最初から王宮に乗り込む気まんまんのようだった。なにしろその証拠にどうやら偽名を使っている。彼はレック・なんちゃらと名乗っていたけれど、それ、あの大男のガレオンとか言う人が誓った相手の名前とは違うよね? 本名はレクトール・なんちゃらだったよね? レックは多分ただの呼び名だよ。


 だけどどうやらオースティン神父もノリノリの様子で、

「年寄りに優しい馬車がいいのう。最近はすぐに腰に来るからの~」

 とか言っている。


 なんなの二人とも私の命はどうでもいいんですか。少なくとも神父様は私の事情を知っているはずなんだけれど、なんでそんな楽しそうにしているのかな?

 遠足じゃあないのよ?

 私は危ない橋なんて出来るだけ渡りたくはないのよ。


 とはいえ私もちゃっかりと、このメンバーでどうにかこうにか誤魔化して王宮から無事に帰ってくる可能性と、今一人で逃げ出してまた一から隣国の人と知り合いかつその人が隣国に入国する手助けを約束してくれる可能性というのを天秤にかけて、まだ若干王宮から帰る方が楽かな、と計算してしまったのも嘘では無い。


 今や私には武器がある。「逆・癒やし」という魔術が。

 そしてレックの実力はわからないけれどもとりあえずは金持ちな上に、隣国へ行かせてくれるとの約束も取り付けている。その上どうやら自称とっても強そうな魔獣のロロと、そして実際に強い上に強力な「加護」持ちの神父様もいる。


 本当に危なくなったらロロをつれて、きっといつでも逃げ出せる。そう信じて。だからその時まではこの人たちと一緒にいてみようか。



 かくして私たち三人はおとなしく、まとめて王宮への護送馬車に乗せられたのだった。

 またこの馬車か……もはや懐かしい……。


 今回は罪人の護送ではないからか少しは見かけがマトモなものの、作りは基本変わらなかったよ。

 これ、また腰が痛くなるやつだ……。

 まあ今回は自分で治すけど。

 私は思わず遠い目をしたのだった。

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