7
わたしのうたは火の島を覆う海に溶けていく。
もっと口を大きく広げて。
もっと息を吸って。
もっと声よ広がって。
舞台袖はきっと光の差す海の中だ。
あの静けさは不思議な力を持っている。
舞台の上はあなたのいる陸の見える岩場だ。
あの緊張と高揚は、あなたが居たから。
うたうことであなたが振り向いてくれるのなら、
わたしはもっとうたっていたい。
深海で震えているだけのわたしでも、
あなたの傍にいたいのだ。
だから音よ、もっと響いておいき。
あなたに届くように。あなたの記憶に残るように。
でも本当はわかっていた。
綾実ちゃんのことが好きなんでしょう。
綾実ちゃんを見るその眼差しは、いつも暖かいから。
確かにそうだよね。
綾実ちゃんは気立てが良くて、可愛くて、ピアノが上手で。
ほんの少し気が強いところが怖いけれど。
でも綾実ちゃんは素敵なお嫁さんになると思うよ。
だってあんなにいい娘なんですもの。
それにあなたのことが好きだって、クラスメイトが言っていたし。
なんでわたしがあなたのことを好きだかわかる?
あなたは忘れてしまったろうけど、
今年の春、あなたは合唱部で伴奏をするようになったでしょう。
そしたらあなたはわたしの歌声を褒めてくれたよね。
本当に嬉しかった。
だって今まで部員の皆に下手くそって怒られていたから。
あなたのピアノは優しい音がして大好きだった。
コンクールは全国大会まで進んでいたね。
それを知った時、あなたが遠くに行ってしまって悲しかったけれど、
自分のことのように嬉しかったよ。
もうすぐわたしのうたが終わる。
わたしの夏がおわる。
あなたたちのように素敵な演奏はできなかった。
でもあなたに聴かせることが出来たのだ。
いまはそれだけで幸せだ。
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