第9話意味深な言葉
ピンポーン!
電車に揺られ会社帰りにそのまま姉の家に着く。会社を出る際、最後にすれ違った花園さんの言葉が頭から離れず、電車の中はずっと悶々と苛立っていた。なので姉にも電話する事なく突然9時前に到着。
ピンポーン!
呼び鈴を鳴らせど、全然出てくる気配がない。まさかいないのかと、姉の携帯に電話してみた。
プルルルル……。
なぜか、家の中から携帯の鳴る音が聞こえてくる。5回目のコール。留守電に切り替わる。鍵もかかっているみたいなので、いないのかと思ったが、再度もう一度だけと鳴らしてみた。1回、2回、3回、4回……。やっぱりいないと思い、切ろうとしたら姉の気だるい声が聞こえてきた。
「はぁ……い……」
「あっ和姉?」
「ちょっと待って……、開けるから」
寝ていたのかと思った。しばらくすると姉が髪をかき上げながら、少しだけドアを開けた。みれば下着姿。やっぱり寝ていたのかと思った。玄関に入り靴を脱いで姉の自宅に上がる。姉は気だるそうに私を迎え入れ、私もお邪魔しますとやはりよそよそしく上がる。姉はそのままシャワーを浴びるからと浴室へと消えていった。2LDKのマンション。ダイニングキッチンを抜け引き戸をソッと引く。そこは小さな4畳和室で和馬くんが布団を引いて寝ていた。
「あれ?」
和馬くんが寝ているという事は、私は今日どこで寝かせてくれるんだろうと疑問に陥ったが、荷物だけを置き、ダイニングキッチンの椅子に腰掛け、姉がシャワーから出てくるのを待っていようと思ったら、通路のもう一つの部屋、姉と旦那さんの寝室だと思われるところから、旦那の
その姿はいかにも今まで一緒に寝てましたと言わんばかりの、ヨレヨレのスウェット姿に髪がクシャッと跳ね上がり、少々汗ばんだ顔つき。
そうか。私が来る事でしばらく出来ないと励んでいたのかとすぐに察しが付いた。そんな思いは、私はやはりここに来るべきでは無かったのかと思ってしまった。来ると分かっていてのその行動は、危険な薫りを存分に含んでいそうで少々ゲンナリした気持ちなった。
由雄さんは、私に冷蔵庫からビールかお茶どちらかと尋ね、私はお茶と答える。2つコップを出し、自分の分と私の分をコップに入れて、「どうぞ」と一言。由雄さんはやはり喉が渇いていたのか、そのお茶をクイッと飲み干した。そしておもむろにキッチンカウンター前の椅子に腰掛けると、私に質問してきた。
「明日から心機一転?」
「あっはい……」
「ふーん。いいところだといいね?」
「ありがとうございます」
由雄さんは、こちらに向きなおし、私の顔をじっと見つめた。そして……。
満面の笑み? いや、ちょっと怖い笑みを浮かべた。
「えっ?」
その笑み、どこかで見たような……。何か笑っているけど本心から笑っていないようなその目つきと口元……。少し怖い気がして、コップを持ち顔を由雄さんから背けてお茶を飲んだ。由雄さんはその態度にため息を一息ついて、首をゴキッと鳴らして、浴室へと消えていった。
入れ違いで、姉がダイニングにやってくる。お茶を飲み一言。
「早かったわね?」
今頃? それ……と思ったが、素直に「うん」と答えた。髪の毛をバスタオルで拭きながら、気だるい印象。
「ごはんは? 食べてきた?」
「えっ? あっちょっとイライラしてて、食べてないんだ」
「そっか……食べきてくれたら良かったのに……」
「あっそだねぇ……ごめん。ちょっと近くにご飯屋さん探しに行ってくる」
「うーん、まぁいいわ、残り物あるから食べな!」
「あっ、ありがとう」
何か自宅にいた頃の和姉と少し違う印象を持つ。何でだろう……。
「あっそうそう、和馬が寝てるからさ、あんた悪いけど今日その隣か、リビングのソファでいい?」
「あっうん、ごめんね?やっぱり迷惑だよね?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」と和姉は今日だけは迷惑そうな意味深な言葉を残して寝室へと消えていった。
その言葉は、私には強烈すぎて要らない感情が巻き起こった。
「私、明日出張だからさぁ?」
思いも寄らない一言に私はどうしていいのかわからなくなった。姉が、姉が明日いない……。
由雄さんと、二人きりの週末の夜? ……。ううん、和馬くんいるけど、いるけどぉ……。何か騒ついた感情が湧き上がった。
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