九話目 いきたい

「……何されてるんですか?」

「うわ!?って、え?透けてる?」

「あーすみません。脅かすのも幽霊的にはやらなきゃいけない気がしてて」

「えーと……幽霊?」

「はい、幽霊の幽霊ちゃんです!本名は忘れちゃいました!今はこうして人と話したりしてるんです」

「はあ、そうなんですね」

……。

「あなたの名前は?」

「……あたしの名前?」

「そう、あなたの名前」

「……香の花でいいかしら?」

「香りに花で合ってるかな?」

「ええ、その通りよ」

「香の花さん。あなたは何故こんな夜更けに川底なんて眺めているの?」

「あたしは死にたがりよ。でも、死ねないわ」

「死ねない?」

「昔ね、霊視のある人に……あんたは死神に嫌われている。って言われてね。そのせいか首を吊れば紐が切れて薬を飲めばラムネにすり替えられてて水に入ればどこかへ流れていくわ」

「それはまた変わってるね」

「あーそうね。今もこうして幽霊と話してるわけだし」

「幽霊と話しているのにどこか冷静だね?」

「まあ、昔から見える側の人間だったから。最初のは居ないと思ってたからかな」

「なるほどね」

「……幽霊ちゃんは記憶が無い幽霊ちゃんなの?」

「うん。私には記憶が残っていない。気がついたらこの姿でこうして彷徨っていたんだ」

「白い死装束に白い髪。あなたは目以外は真っ白ね」

「それは他の人にも言われたなー」

「……あなたの紫色の目は嫌いじゃないわ」

「あらあら、もしかして求婚されているのかしら?冥婚なんてものもあるけどどうかな?」

「あなたってかなり自由な人だったんでしょうね」

「そうなのかもしれないね」

……。

「ちなみにこの服は自由に変えれるよ?」

「幽霊にファッションってあるのね」

「まあ、幽霊的にはあまり気にしてないけど」

「いったい何を言いたいのかしら」

「特に意味の無い音の繋がりを発していたい欲望に駆られているって感じだよ?」

……。

「なんでそんな目を丸くしてるの!?」

「そりゃあなた、長距離走で一緒に走ってた友人がゴール寸前で百メートル十秒程度の速さで走り出したら驚くでしょう?それと同じ感覚よ」

「それは幽霊ちゃんには伝わらないかな」

「足がないから走れないわね」

「浮遊とかすり抜けはできるけどね」

「あたし、どうやらあなたと話すのが楽しいみたい。さっきまでの感情はどこかに消えたわ」

「幽霊ちゃんも香の花さんと話すのが楽しいよ」

「どうやらあたし達は似た者同士のようね」

「そうだね。でもまるで正反対だよ」

「どう意味かしら?」

「漢字が全く別の方向を向いているもの」

「……なるほどね。生きたいと」

「逝きたい……。まあ、相手の近くに行きたいという意味では同じかも?」

「あなたはこれからどうするの?」

「幽霊ちゃんに家などない!」

「まあ、そうね。住所不定の無職だから職質をかけられるなら大変なことになるわね」

「まあ、見える人の方が少ないけどもね」

「……あなたが良ければあたしと一緒に過ごさない?単にあたしが話していたいだけな気がするけども」

「あらあら、告白されたのはこれで三回目。まあ、女性からは初めてだけどね」

「告白では無いわ。境界を越えた友人としてのお誘いよ」

「すり抜ける手をちゃんと握ってエスコートできるかしら?」

「それは出来ないわ。恋人ではないからね」

「それもそうね。では、いきましょうか」

「幽霊ちゃんはどこへいきたい?」

「あなたとならどこへでも」


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