六話目 空理空論と夏休み

「空理空論という言葉を知っているかい?」

「いきなりなんですか?風野先生。作業している人間に話しかけるなんてどれだけ常識を知らないんですか」

「休みの昼に電話で起こされて喫茶店に来てくださいと言われた身にもなってくれ。あと、さっきからゲームをしているように見えるのは僕の目がおかしいのかな?」

「まあ、ゲームをしていることには間違いありませんね。今無事に勝って機嫌が良いので作業の続きと行きましょうか」

「そうですね。僕の立場からすればそうして貰えるととても助かります」

……。

「ところで紅葉さん。またなぜ僕を呼んだのですか?」

「なぜ……そうですね。その歳で恋人の一人もいないで暇そうにしてそうな人といえば先生だったからですかね」

「先日正直な事は良い事だと褒めましたがたまには嘘をつく事も良い事ですよ」

「そうですね。なら先生とてもかっこいいですよ」

「そういう嘘はたまになら人を喜ばせるから良い嘘かもしれませんね」

……。

「ところで、話は戻るのですが」

「先生の彼女が居ない理由なら先生の猫背と暗い性格のせいだと思いますよ」

「もう少し話を戻してください。あと僕はまだ何も言ってません」

「そうでしたか?」

「そうですよ。それで話は最初の空理空論とはに戻るのですが」

「ああ、そんな話もありましたね」

「久しぶりに会った人たちの会話みたいな感じにしないでいいですよ」

「それで、その空理空論ってなんですか?オレンジジュース一杯と交換で聞きますよ」

「別に恋愛相談をしてる訳でもないのになぜ僕が奢らなければならないのか」

……。

「ハイハイ、奢るから聞いてくださいね」

「マスター!今日のケーキセットをオレンジジュースで!!」

「かしこまりました」

「僕はケーキも付けていいとは言ってませんよ」

「作業のお供には甘いものと耳障りのいい雑音がちょうど良いんですよ」

「それだと僕は雑音として呼ばれたことになるのですが?」

「よく分かりましたね。安楽椅子先生」

「人の名前を変えないでください。あと人を雑音として扱うのもやめてください」

……。

「空理空論という言葉の意味だが」

「あ、話すんですね」

「話さないと私はただ奢っただけになりますからね」

「別にそれでも構いませんよ?」

「僕は構うので。それで、意味なのですが」

「こちら本日のケーキのクランベリーのフォレ・ノワールとオレンジジュースになります」

「ありがとうございます。では、私はケーキを頂きながら聞きますのでどうぞ」

「ああ、うん。本当に自由だね。君は」

「それが私の取り柄ですからね」

「さて、空理空論という言葉の意味だが現実や現状を考えない……要は役に立たない考えや理論のことだ」

「なるほど、その意味を聞いてやっと漢字が分かりましたよ。それでなぜその言葉を今?」

「むしろ今教えるのがちょうど良いかと思ったけども?」

「そうですか。そうかもですね」

「夏休みの課題全部を残りの四十四時間で終わらせようと言うのだから」

「それを分かっているなら早く手伝ってくださいよ!!!」

「僕、教師だから教えることは出来ても悪事には関われないかな」

「あーもう使えない先生だ!!!」

「自分を呪う方法なら教えられるけど?」

「いらない!!」


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