三話目 避ける姉と忘れた妹

「あ」

「あ」

……。

「風野先生じゃないですか。姉の紅葉はちゃんと授業を受けてますか?」

「ああ、やっぱり燈矢さんの妹さんか。ああ、最近は彼女らしくなく課題以外は真面目だよ」

「そうですか。それはとても良かったです」

「何故そんな話を?」

「何故だと思います?」

「質問を質問で返すことは良しとはされていないけどそうだな……家での様子が妙だったりとか?」

「まあ、そうですね。妙と言えば妙ですね」

「どこかその言葉に納得が言ってないようだな?」

「ええ、少し話を聞いてくださいますか?」

「まあ、あまり長い時間一緒に居ると人目が怖いから手短に頼むよ」

「わかりました。では……。姉が最近私を避けているように感じるのです」

「避けている?」

「ええ、私と目が合わないように視線を逸らしたりすぐに部屋に戻ると言った感じですね」

「それでなぜ授業の話に?」

「姉は昔から体調が優れない時など家族に隠す癖があったのでもしかしたらそれで……と思い、学校での様子を聞いたのです」

「なるほど。確かに昔からそんな癖があるなら体が心配になるのも分かる」

……。

「ちなみにだが、姉は親とは普通に話しているのかい?」

「親……?あー、親ならとっくに」

……。

「すまない。嫌な話を聞いてしまったようだね。そこの自販機でジュースを買ってあげよう」

「お気遣いありがとうございます。でも、別に気にしてなどいませんよ」

「これは僕が気になるからなんだ。何を飲みたい?」

「そうですか。それなら、私は缶コーヒーのミルク入りのやつをお願いします」

「コーヒーを飲むのかい?妹さんは大人だね」

「子供ですよ。まだ中学の」

「ははは、冷たい返しだね。ほら、手を出して」

「先生も冷たい返しじゃないですか……。ありがとうございます。いただきますね」

「どうぞ」

「んー?そこに居るのは先生じゃないですか?仕事の終わりに小さい女の子を手玉にとってるんですか?」

「君は何故そういう発送に至るのか教えて貰えると大変助かるよ。紅葉さん」

「あ、お姉ちゃん。補講は終わったの?」

「ん?ああ、小さい女の子と思ったら紫叶じゃないか。このオッサンと何してたん?」

「んー?先生とはちょっとお話して今は缶コーヒーを奢ってもらったんだよ」

「まあ、話がかなり端折ってあるが大体合っているよ」

「先生?うちの妹に手出したらダメだよ?」

「いや、私は先生として子供の相談に乗っていたんだよ」

「ほんとうか?」

「……。まあ、そうですね。それで合ってるよお姉ちゃん」

「そっかー」

「妹さんだけというのは可哀想なので紅葉さんにもジュースを買ってあげますよ。早く選んでください」

「なんかえらく冷たいな。なら、私はミルクティーにするわ」

「では、先生はこれにて」

「さようなら。風野先生」

「また、明日なー!」

「はい。しやすさんさようなら。紅葉さんは大人への言葉遣いには気を付けてなさい」

「それで、紫叶は先生と何話しとったん?」

「最近お姉ちゃんが私とちゃんと話してくれないって話」

「あー……それ気にしとったんか」

「そりゃ、誰だって気になりますよ。それで体調が悪くないなら何がどうしてそんな行動になったんです?」

「んー……それはあと二週間の秘密やな」

「微妙に長い期限と楽しくなさそうな秘密……」

「そこまで言わんでいいやろ!!」

「なら、教えてよ」

「んー、もしかして二週間後の事忘れてるん?」

「何か……?」

「自分のた……」

「っ!!いい!!それ以上は言わなくていい!!」

「思い出せたなら良かった。それじゃ、帰ろっか」


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