ソロ

 それから程なくして会議は終わり、俺たちはそれぞれの部屋へと戻った。


「なあソウタ、お前嘘ついてたろ?」


 俺の生成した水を飲んでいたアキラが唐突に聞いてきた。


「……なぜそう思ったか聞いていいか?」


「ソウタって、スキル......というか魔法を使うとき、対象をガン見する癖があるだろ? 数ヶ月も前から、ソウタは今まで何度もコップに水を入れてくれてる。慣れたはずなのにも関わらず、未だにコップをガン見しながら水を入れてる。魔道具に触れたときもな……。何かスキル使ったろ?」


 無茶苦茶な言い分だが、見事に事実を当てている所に少し恐怖を覚えた。お前勘鋭くない?


「いやいや、万が一溢れたら大惨事になるだろ?」


「まあそうか......ただな、俺がお前にふっかけたとき、真っ先に理由を聞いてきたろ? そういう奴は大体やってるんだぜ? もうゲロっちまえよ?」


「根拠があまりにも弱すぎる。フィクションの見過ぎだ。」


「......さいですかさいですか……ソウタさんはすっとぼけるおつもりですか……」


 軽い調子に言ってうなずくアキラ。


「おいおいマジで使ってないって……やってない事をやってないって言うのは当たり前だろ?」


 その時、扉をノックする音が聞こえた。


「アキラ様、皇帝陛下がお呼びです」


「げっ、マジかよ……」


 彼は露骨に顔をしかめる。


「(俺も着いて行ったほうがいいんじゃないか?)」


「(いや、それについては問題ない 俺が自分でどうにかする だからソウタは来なくていい)」


 そう言って、彼は扉の向こうへと消えていった。一応帰ってきたら回復薬でも飲ませてみるか……仮に魔法に掛かってて、治るかは知らんけど……。


____________   アキラ視点


 二人の足音だけ聞こえるのが妙に気持ち悪い。


 俺の前を歩くのはメイドのシモンさん。この人に敵意が無いことは既に把握済み。しかし、これから会う奴らもそうかは限らない……一応全部オンにしとくか……『リストアップ』


 俺の目の前に、俺だけしか見えない半透明のリストが現れる。


 『剣術』       オン 「オフ」

 『体術』      「オン」 オフ     

 『敵意察知』     オン 「オフ」

 『簡易鑑定』     オン 「オフ」

 『状態異常無効化』 「オン」 オフ

 『気配隠蔽』     オン 「オフ」

 『土属性魔法』   「オン」 オフ

  …………     …………………

  …………     …………………

  …………     …………………

  …………     …………………


 膨大な量のスキルの使用可能状況を片っ端からオンにしていく。魔力の最大値が少々下がってしまうが仕方ねぇな……


 各スキルのレベルを表記してくれないのがこのリストの欠点だが、どうせ俺の『簡易鑑定』じゃ詳しい効果はわからねぇんだ、気にしない気にしない……


 にしても神さんや……こんなチートなスキルをこんな奴に与えてしまってええんか……? 


 それとも、転移してきた皆も、こんなエグいスキルを持ってんのか……? 


 お前は、大量の人間が個人個人で核ミサイルを持つような世の中にしたいんか……?


 そして俺はリストの一番下のスキルをオンにする。




 『スキル創造』   「オン」 オフ


 


 やがて、一つの部屋の前で彼女は止まった。そして扉をノック。続いて名乗る。


「入れ」


 そこはきらびやかな所だった。来客用の部屋を豪華にするのはよくわかるが、ここまでする必要性は皆無だろうよ……


 中央のテーブルに奴はもう付いていて、奴の娘も同様に付いていた。


 許しを得て向かいに付くと、唐突に奴が話し掛けてくる。


「急に呼び出してすまなかったな。今回は我が娘の事で呼び出させてもらった……」


 奴は突然奴の娘へと視線をやる。さて、ソウタの情報ではここで……


 彼女の目を見ると、彼女の両目があやしい紫に光った。こいつか……だが俺の体に異常は全くねぇし、……レベルはそこまで高くない俺ですら効かねぇ……そして、


 俺のスキル『状態異常無効化』がはたらいたわけでもねぇ――


 ここから導き出される最も平和的な結論……


「何か魔法を使ったように見せかけて、単に目を光らせただけ……ですね?」

 

 元に戻した目線は、『見つけた』というような顔を捉えた。



____________   三人称


 所変わって、皇都クラギスから北東へと少し離れた局所的な砂漠地帯に、夜の闇に紛れる、黒い2つの人影があった。もしもその場が明るくて人が見れば、その大変奇妙な状態に驚くだろう。


「ケッ、あいつも人使いが荒いなぁ……しばいたろか……?」

「……やるぞ」


 一人は小学生くらいの子供。もうひとりは筋骨隆々な大男。


 これだけならまだおかしくはない。


 しかし、大盾を敷くようにして亀のように腹ばいに二人乗っかる様は、理解に苦労するだろう。


「しかも二人だけでだよ? ひどいよねぇ? だって、邪神討伐の魔道具とか、絶ェェッ対にヤバいやつじゃん……罠にゴーレムその他諸々……無茶苦茶だぁ!」

「……つべこべ言うな……さっさとやるぞ」

「……へいへい……」


 少年はうつ伏せになっている大男の上で仰向けになった。


「準備完了! ……じゃあ、始めよっか……」


 語尾の沈んだ少年は両手をパンと叩いた……しかし、何も起きない。


 仰向けの少年と、地面に敷いた大盾に挟まれている男は何も言わず、何かを待っているようだった。


 そして少年はもう一度手を叩く。


 次の瞬間、あたり一面の砂を吹き飛ばしてもなお余りある衝撃が駆け巡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る