別れ

『容姿か……まあ、見た目は白髪の老人で、髭が胸の辺りまで伸びていたな……あと、瞳が金色だった。そして、かなり前に強力な鎧を作って、最後に見たときはそれを装備していた……確か目立たない地味な色だったはずだ。』


 俺が会った方の大賢者ジグラとほとんど同じだな……髭の長さは違うが……そして地味な色の鎧……


 あ、俺『ジグラの鎧』装備しとくの忘れてた……まあいいか……。装備してたらもっと楽だったんだろうな……


『ん? まさか……ソウタ……ジグラの鎧を持っているのか!?』


 ああ、持ってるぞ。


 ポケットから紫色の球体を出して装備するよう念じると…………っ、これがその鎧だ。あ……決して本人から強奪したわけじゃないぞ? ゴブリンの財宝庫の中にあったのを取っただけだからな?


『ッ! ……懐かしい……そうか……しかしゴブリンの財宝庫の中にあったとは……一体なぜだ……? あやつが自分で作って自分で最高傑作とまで呼んでいた鎧を、そう簡単に手放すはずがない……やはり……そうか……ありがとう。………………さて、そろそろ我は住処へ帰るとするか……』


 そうか…………もう少し、お前と話をしたかったが、まあ念話で話せるか……あ、念話の時以外は俺の頭の中の読み取るなよ? 日頃から、考えてる事を誰かに読み取られるのはなんか不気味だからな。


『そうしておく…………ではな……って……ソウタ……今回のお詫びと言ったら何だが、これを貰ってくれ。今回のは、寝惚けてた我にも責任があるからな……許してくれとは言わない。我の自己満足だ。』


 そう言って、火龍は、赤く光輝く鱗を数十枚ほどこちらへ飛ばしてきた……あ、そこは空中に浮かべたりとかはしないんだな……。


『そんなの出来ん。前にも異世界人と会ったんだがな……ソウタ達異世界人は、なかなか理想が高い節がある。あまり期待しない方がいいぞ?』


 まあ、俺達が……少なくとも俺がいた世界では、この世界みたいな、通称『異世界』を描いた小説が多々あるからな……期待するのも無理はない。まあ、理想は低く持っておくことにするぞ。


『ではな……あ、我の住処はここから南にずっと行ったところにある火山の内部だから、気が向いたら来てみるといい。あ、これから飛ぶんで後ろに立つのやめてもらっていいですか?』


 俺は方向転換した火龍の右側へ移動する。


 火龍は翼を広げると、その後ろで爆発を起こし、飛び上がり、夜空に緋色の軌跡を描きながら、一瞬で彼方へ消えていった。


 南か……って、火山の内部に住処があるのかよ! 


 そんなツッコミが届くはずもなく、心の中は既に独りになっていた。

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