ドラゴンの一撃
迫り来る巨大な火球を窓越しに発見した俺は、咄嗟に『水魔法』を使いそうになったが、すんでの所で踏み留まった。スローモーションの世界の中で考える……
火球に水を当てると、火球の熱によって水蒸気爆発が起こる可能性がある。『水魔法』なら、『水蒸気にならない水』を生成出来るかもしれないが、確信がない。そして、俺達がいるこの部屋は地上からそれなりの高さにある。
爆発が起きて大量の瓦礫が飛び散ると、仮に下に水か氷でバリア的な物を張っても、その範囲より外に落ちる可能性があるし、瓦礫を受けきったとしても、それを解除したらまたそれらは落下を開始する。
回復薬で耐えるか? だが仮に回復回数や量の限度があったときは、時間が経って魔力が尽きてバリアが強制的に解除されてしまう……瓦礫は人々を殺傷するだろう。俺の回復薬が死人を生き返らせる事が出来る確証は無い。そして、なんならこっちの方も俺を除いて無事では済まないかもしれない。
あまりにもリスキーだ。『水魔法』で火球に水をぶつけて打ち消しを図るのは却下。
ここがもしも魔の森とかだったらそんなの気にしないんだがな……場が悪い。
氷でも、勿論かなり危険だ。これも却下。
水をぶつけなければ……でも、ぶつけない限り打ち消せないよな……。
俺が殴るなりなんなりしてかき消すか? 駄目だ……いくらステータスが高いからってあんな巨大な火球の近くまで行くなんて事は俺には出来やしない。そもそもの話、アニメみたいに火球を手でかき消すなんて事が可能なのかわからない。
うん、駄目だ……結論、『俺じゃ無理』。だがどうする……?
……! 近いのはこいつだな。将棋盤へ向かっている彼の顔を無理矢理火球へと向けさせる。
「アキラッ! お前の土魔法であの火球を止められるか?!」
「は? …………了解だぜ! そらッ!!」
彼も自分達が置かれている状況がのみ込めたようで、瞬時に土の壁を空中に生成してくれた。さすが時属性チートの上を取った男。
火を防げるのは、水を除けば土くらいだろうか。いや砂もか? まあ、あの火球が酸素が無くなれば消えるような代物であれば……の話だが。
そして、もう一人土魔法が使えるのがいる事を忘れてはならない。
「ケイタ! アキラが生成した土の壁の内側に更に土の壁を生成して分厚くしてくれ!」
「え? ……わかった! よッ!」
アキラとケイタよって生成された壁が、窓のすぐそばまで近付く程分厚くなった。まだやることが残っている。
「魔力回復薬だから飲み込め!」
そう言って俺は回復薬を生成し、二人の口の中へ入り込ませる。二人とも素直に飲み込んでくれたようだ……。
そして、その時がやって来た……────
────
──「なんとか凌ぎ切ったぜ……解除。」
脱力したように、へにゃりとその場に座り込むアキラ。ありがとな…………
「ワイ、何の役にもたてへんかった……皆、すまん。」
「いや、あの火球とショウヘイの魔法の属性の相性が、たまたま悪かっただけだ……気にするな。まあ俺が言えた立場じゃないが。」
「気にしないでよショウヘイ……解除……ってえ? 何あれ!? ドラゴン!?」
「は?」
「え?」
「へ?」
視線を外へ向けると、上空で身体中から猛々しく火を噴いている、赤色のドラゴンが羽ばたいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます