勇者の後任
「皆、ご苦労だった……」
俺達は今、閉会式の真っ只中。御前試合を行った者達は中央で整列し、拡声の魔道具で大きくなった、皇帝陛下の長話を延々と聞かされている。前の世界での校長の話よりも長いだろう。重要人達のゾーンの中に勇者は見えない。治療中かな? まあ、いいか……。
校長の場合は話さなければならない事が決まっているらしいが、目線の先にいる老人は『皆の者、ご苦労だった』の一言で十分だと思う。多分それだけで、普通のやつは内心で狂喜乱舞するだろう。
俺は最前列だから、あくびやよそ見なんかしたら即バレだろう。ああ、さっさと終わらないかな~。
「……というわけで、あのような者は勇者として相応しくない。そのため、余は新たなる強者を、勇者として認定しようと思う。」
ああ、あいつ勇者クビになったんだな……新たなる強者……ん? しまった! 盲点だった! 勇者が居なくなったら国として困るから新しい奴が認定されるんだ……!
そしたら……勇者パーティーの副リーダーと勇者本人に勝ったという実績を持つ俺は、
「よって、この国で最も強いソウタを、二代目のクラギス帝国勇者として認定しようと、余は思っている。引き受けてくれるか?」
でしょうね! 『本当の黒幕こいつ説』が浮上してるよ俺のなかで!
まあ断るけど! ……だが言葉を選ばないと、不敬罪又は言質とられるなんて事もあり得るんだよなぁ。あ、魔道具どうも……。
やべぇ、皆の視線が俺に集まってやがる。圧が凄い……『断るなよ』ってのが伝わってくる……。そんなに皆やりたくないんだな。
渡された魔道具……ほぼマイク……に口を近付ける。
「勿体ないお言葉。ですが、私めにはあまりにも荷が重すぎます。他の者を認定されては如何でしょう?」
言えた……!
「では、そなたなら誰を推薦する? そなたよりも強い者が、人類の中で居るのか?」
……思いつかねぇ…… いや、『俺と同等』くらいのはいた! てか、多分皆はあっちの方が強いと思ってるだろう。しかしだ……『賢者』なんだよな……あの爺さん。もしも『勇者、賢者、聖女』がワンセットだったら『勇者俺、大賢者ジグラ、聖女誰かさん』になるんだよなぁ……でも、あれしか強いのが居ないからなぁ……。
仕方ない、売ろう! あの爺さんを!
「おります。」
「ほう、その者の名を申してみよ。」
「……ジグラ……と言います。ここより西に進んだ所にある、魔の森という場所に住んでおりました。」
場が水を打ったように静まり返った。当たり前だろう。大賢者が魔の森に住んでいて、しかも俺がそいつと会ってるなんて、この場にいる誰も思ってないだろうから。
多分、この期間中の会議のどこかで挙がる話なのだろう……俺結構まずい事言ったかもしれないな……いや、俺は悪くない。皇帝が悪い。
「そなた……大賢者ジグラと会ったのか?」
「はい。ベテルス王国最東端の町、ドバンがスタンピードの被害を受けた後、私が魔の森にて魔物の間引きを行っていた所、偶然その方と出会いました。」
「それは誠か? もしそうでないなら……」
「本当です。この事は冒険者ギルド、ドバン支部ギルドマスターである、ガレアスという者がよく知っております。」
「そうか……では彼に詳しく聞くとしよう。では……これにて、御前試合、閉会式を終了する!」
ん? 思いの外あっさり引き下がったな。『大賢者が勇者になるまでの間お前がやれ』と言われるかもしれないと思っていたが、無かったな。勇者という重要な職が何度も頻繁に変わるのは避けたいのだろうか……。
まあいい。とにかく俺が勇者になるとは決まってないし、後はこのまま護衛を済ますだけだ。面倒事よ……起きるなよ。
てか、このあとどうなるんだろうな。ガレアスさんの胃がもたなくなるかもしれない。今度会ったとき薬あげようかな……。
日はずいぶんと傾いており、闘技場の壁の水平線に消えかかっていた。
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