お呼びだしと罠

 閉会式の後、戦った者達はそれぞれの部屋へと戻っていった……俺以外は。


「わざわざ呼び出してすまなかったな。敬語はいらない。」


 広い部屋の中に置かれた机についた俺は、皇帝と向かい合っていた……用件は十中八九勇者の件についてだろう。


 護衛……この場合は近衛か……が、刺すような目線を俺へと送っている。強行手段か? 『ジグラの鎧』は既に装備済みだから、万一切りかけられてもどうにかなる。というか、多分無くてもどうにかなる。


「わかった。それで、用件はなんだ? 手短に頼む。」


……あ、近衛さん、目力強いですよ? ……


「どうか、勇者になってくれないか? この通りだ……頼む。」


 頭を下げられた。君主が頭下げたら駄目だろ……。まあ、俺がそのくらいの立場の人間として見られてるという事か……何か上から目線感半端ないな……。


「断る。俺以外に適任がいると言ったろう? 俺は彼を推薦する。」


 いくら低姿勢になって頼んできても、ここは譲れない。これは泥沼な局面になりそうだな……。あまり喋り過ぎないようにしよう。言質をとられたら終わる。


「そこをどうにか頼めないか? 大賢者様をお呼びして勇者になって頂くのは、あまりにも難しすぎる。そもそも会うことすらできんだろうよ。」


 すがるような目をされても、ダメなものはダメだ。


「断る。」


 そりゃそうでしょうね……いくら一国の主だとしても、相手は大賢者様(クソジジイ)だからな。彼自身そういうの嫌いそうだったし、望み薄だな。


「……そうか……。」


 すると、彼は──パンッ……っと手を叩いた。おいおいマジで強行手段かよ!?


 とっさに席を立って身構える。しかし予想に反して誰も切りかかってこない。どういう事だ……?


「失礼いたします──」


 聞き覚えのある声と共に、一人の美少女が入ってきた。そして皇帝のすぐ横に立つ……何か流れ的に嫌な予感がしてきたぞ……。


「初めましてソウタ様。第三皇女のリーシャと申します。」


 そしてスカートの端をつまんで上品な礼をする……『初めまして』……か、まあ、そうだな。


「こちらこそ……初めまして。」


 席につく。うん、これは、アレだな。現在第三皇女はおそらく勇者との婚約を破棄しているから、アレの可能性がある。そう、アレだ。


「我が娘のリーシャだ……勇者となった者と婚約させるつもりだが……。」


 だろうな……。あんまりこういうのは好きじゃないんだよなぁ……人を交渉材料や繋ぎ止めに使うのは。でも、そうしていかないと国同士の繋がりとかが薄れていくのだろう。


「断る。」


 だが、それは俺が受け入れる理由にはならない。


「…………そうか……。」


 そう言って、彼は彼女へと視線を送った。


──何だ?──


 そう思って目線を彼女へとやすと、彼女の目と合った……どうした?


 その瞬間、彼女の目が紫に光った。

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