ポジティブのためのネガティブ

「……しょ、勝者、アキラアアァァァ!!!」

『オ、オオォォォォォォ!!!!!!』


 何が起こったのかわからない観客や司会の無理矢理の熱狂の中、土の覆いから抜け、悠々とその場で一礼し、こちらへ戻ってくるアキラ。


 後に残されたのは、彼が生み出した土の塊に四肢が埋まって身動き出来ない……というか気絶してる(?)、青い鎧を着た黒髪黒目のポニテ女子で見た感じJK。と、アキラが穴を開けて出てきた土の覆い。


「勝ってきたぜい! いやぁ、運のお陰で何とかなった! あれは……絵面的にはヤバいけど、闘いでは多分セーフだよな? うん、そうだ。俺は悪くない。手加減無用のルールを決めたあっちが悪い……はず!」


 そう言って、アキラはどっかりと椅子に座った。コラコラ下手したら壊れるぞ……。


「お前、何をしたんだ? 俺が見た感じ、土の塊を超高速で生成したようにしか見えなかったんだが……あってるか?」


 すると、彼はパチンと指を鳴らして、人差し指の先を俺へ向けた。人を指差すのはあまり良くないが……まあ、いいか……。


「その通り! 見た感じ手加減してるように見えるけど、塊の内部ではかなりの圧力が掛かってるから腕は多分骨折してるぜ! まあ薬飲んで安静にしてれば多分治る……はず」


 覇気が無かったが、まあいいか……手加減無用だし……最悪殺しても問題は無いしな。

 

「そうか……てかあれだけ負ける負けるって耳にタコが出来るくらい聞いたのに、いざ戦ってみれば時属性とかいうチート持ちを瞬殺するって……お前、自分に対する過小評価がひどすぎじゃないか?」


「まさか……はっきり言って、俺の予想通り時属性の魔法……つまり時空を操る魔法には致命的な欠点があったからこそ、俺は彼女に勝てた。」


「欠点?」


「そうだぜ。俺は、仮に彼女が使える、時属性の魔法の、効果が『自分以外の時間を止める』事であれば、彼女は『それだけでは攻撃出来ねぇ』と予想していたんだ。」


「まあ言っちゃなんだが、時間を止めただけだしな。確かに攻撃は出来ないだろう。」


 すると、彼はニヤリと口角を上げた。


「そうだ。だから『時間を止めている間』に攻撃する必要がある。だが、この『自分以外の時間を止める』って効果はよ、下手したら自分の『体』以外……つまり、服とかも止まっちまうなんて事も引き起こし兼ねねぇ。」


「言われてみればそうだな……でもそれだと使い勝手悪すぎじゃないか?」


「そうだ。だが、彼女は鎧を着ていた。この時点で『服が止まる』可能性はほぼゼロだ。全裸で戦うなんて事は考えにくいからな……だから、『魔法が発動したとき』に、彼女と彼女が触れている物『以外』の時間が止まると俺は思ったわけだ。」


 でも、空気中のちりやホコリまで止まったら進めなくね? と思ったが、それはひとまず置いておこう。


「まあ、そうだろうな……それで?」


「ここからは完全に俺の主観に入るぞ……俺がこの魔法を使って戦うならどうするかって話になる。じゃねぇと対策の立てようがねぇからな。」


「まあ、そりゃそうだな。で、どう考えたんだ?」


「『時間を止める』なんていう強力な魔法はそんなに続かないと思ったから、俺なら飛び道具を使う。だから、俺と相手の間に障害物があったら『邪魔』どころじゃねぇ、時間が止まってるわけだから『決して壊れない』壁になるわけだ。ここで俺目線でされたら嫌な事は終了な。」


「で、より具体的な戦略は?」


「まず、始まった瞬間最速で覆いを生成した後、覆いに小さな穴を開けて相手を視認して土の塊を生成して行動不可の状態にすれば、俺の勝ち、……ってなるわけだぜい! いやぁ、俺、結構久々に脳ミソフル回転したから疲れたぜ……。」


 こいつの分析能力エグすぎんか? 今どきの中高生って、こんなに細かく予想と仮説と戦略を立てるんだな……スゲェわ……。だが一つ言いたい……。


「なあ、長々と語ったけど要は『先手必勝』って事じゃねぇか! てか、負ける負けるとか言っときながらそんなに深く考えてたんだな……。」


「まあ、そういう事だぜ! ああ、『負ける負ける』詐欺も、おまじないくらいの効果があるだろうからやってるだけで、決して俺が単なるネガティブなわけじゃねぇ。俺は単なるネガティブじゃねぇ、『ポジティブのためのネガティブ』なのさ…………(ドや)」


 ウゼぇ……。まあ現にこいつは勝ったわけだし、ここはそれを認めよう。うーん、何か上から目線チックになってしまったな……。


「続いてはこの男、ソウタァァァァァァァ!!」


司会の声がした。自分の名前をこんな大声で言われると、何か不思議な気分になるな。まあ、慣れるまでの辛抱か……いやもう二度と出なければいいのか。そのためには……。


「じゃあ、行ってくる。」


 『ジグラの鎧』を着て、椅子から立ち上がる。肩の力は抜けてるな……さて、とうとう俺の番か……計画は、やってこその計画だ。


「おう、行ってら~勇者の犬をシバいてこいよ~。」


 俺は振り向かないまま、戦いの場へ進みだした。さて本気出すか……次に顔を合わせる時に、勝者の笑みを浮かべられるように……

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