瞬殺
「ここが待機所か……」
もう一試合だけ見た後、客席から階段で降りて、何度か係員さんに止められながら進むと、それなりの大きさの部屋があった。俺達の番……ちなみにアキラが先……が来るのはこの次の試合が終わった後だ。
俺達は部屋の隅に椅子を運んで陣取った。まあ、他の人(一人)だって椅子を好き勝手な所に運んで座ってるんだし、別に問題無いよな……。ここから今戦っている人達が見える。剣対剣……いいなぁ……って、もう決着ついたし! 早すぎだろ……!
担架でこちらへ運ばれてきた戦士は、体中傷だらけで血まみれだった。死ぬなよ……。そのまま彼は奥へと運ばれていった。
『続いてはこの男、レトンダァァァァァァァ!』
それと同時に、椅子に座っていた、赤い鎧を着けている若い男が立ち上がり、戦いの場へ足を進めて行った。
「いやーソウタさん、刻一刻と出番が近づいて来ましたねぇ~。今の心情はどうでしょうか~?」
「普通に気持ち悪いからその話し方止めろ。心情なぁ……わからんな。アキラはどうなんだ?」
「ハハハハハ、俺なんてどうせ勝てっこねぇよ……笑えねぇ、ああ笑えねぇ、笑えねぇ、時間停止でフルボッコやぞ?」
「おいおい、戦う前から諦めるのはあんまりよくないぞ?」
地味に五・七・五・七・七なのが少しアレだが、まあそこには触れないとする。
「なあ、ソウタ。」
「なんだ?」
「諦める事ってよ……悪なのか? 動画検索で名言集のやつを見ると、ほとんどのやつにさ、『諦めるな』っていうニュアンスの名言があるんだよ……そんなに、諦める事は、悪なのか?」
アキラの問いに、俺は言葉を失った。自分でも考えた事が無かった。俺は、諦める事は悪い事だと、自分の中で勝手に決めつけている。理由は………
「応援してる人達が悲しむから……とか?」
「でもよ……応援してる人達の事を思って、無理して、自分が苦しむよりは、諦めた方がいいんじゃないかって思うんだよな……。」
口から言葉が出てこない……そして訪れる沈黙…………
「勝者、レトンダァァァァァァァァ!!!」
『ウオオォォォォォ!!!!!!!!!』
「……お、終わったな。次はもう、俺の番だな。まあ諦める事は悪ではないが、俺はハナから勝ちを諦めているわけではないんだぜ? あまりこういう事は言いたくねぇがよ。」
アキラは椅子から立ち上がり、元の場所へそれを片手で運んだ。そして、その場で軽くストレッチをし始めると、
「やあ、血と汗と歓声の飛び交う、戦いへの覚悟を決めた闘士達よ! 生きて帰ってこいよ!」
返り血で、元から赤い鎧を少し黒くした男がやって来て、そのまま奥へ消えていった。勝ったんだな……あの人。
「続いてはこの男、アキラアァァァァァァァ!」
「じゃあ、多分負けると思うけど、行ってくるぜい!」
そう威勢良く言って、アキラは歩いていった。
────勝負は一瞬でついた────
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