出発

 あれから束の間の休日を過ごした俺達は、いつもの宿でぐっすりと……眠れなかった。


────

──長かった夜が明け、朝日が部屋に差し込む。俺はベッドから降りて、ふらつく両足に言うことを聞かせながら、洗面所へ向かう。


 顔をいつもより長く洗った俺は、昨日中々眠れなかった元凶を起こそうとする。


「おーい、アキラ、朝だぞ~起きろ~。」


「ZZZZZZ……ZZZZZZ……ZZZZZZ!」


 いびきをかくアキラの顔に、『水魔法』で水をぶっかけた。もちろん、鼻や口などから水が入っていかないように操作している。


────

──冒険者ギルドに着くと、そこには多くの冒険者達でごったがえしていた。彼らの鎧や武器は、一流の雰囲気を醸し出している。


「うわっ! こいつは凄ぇな! 人が多すぎて良からぬ事が起きそうではあるが……。」


 アキラが隣で大きな声を出したが、それすら気にならない程の五月蝿さだ。


 あれ、向かいの宿に居た時は全然五月蝿くなかったぞ? ……まあ、大賢者ジグラが、防音の魔道具でも設置してるのかもしれないな……。


「おお、『地割れ』のジーベック様だ!」

「『破壊は快』のギャラク様もいるぞ!」

「『無傷』のフリゲート様もだ!」


 何か有名人達がいるらしい。うるさい理由はそういう事か……。というか、何で護衛の依頼は機密情報なのに、ここ集合なんだろ?


「おお、何か自分も、『二つ名』的なヤツを付けたくなってくるなぁ~。俺の場合は……『二級フラグ建築士』しか思いつかないな。ソウタの場合は……『クールな水使い』……とかどうだ?」


「それはやめろ。捻りも何もない。それに、英語をこの世界の人々が知ってないかもしれないだろ?」


「まあそうだな。」


 その時、どこかの扉が開いた音がすると、目の前にいた冒険者達がそこ目掛けて歩いて行った。


「多分、これって俺達も行った方が良いヤツだよな……。ソウタ、どうする?」


「……行くか。」


 彼らの後を付いていくと、その開いた扉の前で彼らが立ち止まった。俺達もそれに連動して止まる。どうやら列をつくっているようだ。


「先頭では何してんだろうな……?」


「知らん。まあ、俺達の番が来ればわかるから、それまで並んどくぞ。」


 だんだんと、列の中の俺達は前に進んでいき、一番前まで来た。するとギルドの職員のような人が、


「冒険者証の提示をお願いします。」


「……。」


 俺の冒険者証を受け取った彼は、しばらくそれを注意深く見た。何か良くない事でもあるのかと心配したが、


「どうぞ。中へお入り下さい。」


 冒険者証を返されて、中へ入る許可を貰えた。


 そのまま進むと、かなり開けた所に出た。訓練場だろうか?


 大体三十人くらいの冒険者らしき人々が、そこにいた。この人達も、おそらく護衛の依頼を受けたのだろう。さっきまでとは打って変わって、辺りは静寂に満ちている。


「事前に聞かされてたけど、こうして見るとやっぱり多いな~。」


『ザッ』


 アキラがそんな中、いつもと変わらない声の大きさで喋ると、彼らは瞬時にこちらを向いた。


 彼らの好意の視線や嫌悪の視線などが入り交じってなんとも言えない状況になったが、


「皆、よくぞ集まってくれた! この王都のギルドマスター、ゾボロより、感謝の言葉を申し上げる!」


 彼の登場で一応リセットされた。

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